エルテクス技術 コラム随想 ⻑⾕Hase No.3 
     
 
< 電気計算の七つ道具 >

  現在の電力インフラシステムの嚆矢となる交流式高圧超距離送電が日本に初めて実現したのはいわゆ る大正初頭の1910 年代半ばのことです。欧米に後れること数年でした。 現在私たちが利用しているす ばらしい電気の記述&演算理論(数学的記述法)もまたこの時代以降に生まれて進歩を重ねてきた手法 です。

  私たち電気技術者は電気機械の仕様表現手段として、あるいは三相電気回路の電気量演算の手段とし て①複素数演算法 ②対称座標法 ➂dq0 法(Park 理論)という3 っの演算手法を利用します。   複素数回路演算法(Complex method)すなわちjω がなくては回路演算などとても出来ないし、力率・ 無効電力などの概念を説明することなど全く不可能と考えるでしょう。 また対称座標法は3相回路の 計算に必須なだけでなくさらには送電線・変圧器・負荷などの回路要素の銘版仕様表示(お品書き)の中 に x1, x2, x0などという形の定数として登場することを知っています。 さらに回転機の理論(dq0 理 論or Park 理論といいます)や発電機やモータの具体的な銘版記載事項としてxd, xq などいわゆるd 軸 q 軸定数が登場します。
さて、これら3 っの演算法は3 相回路システムの電気計算に必須の三大基礎理論ということができます。 これらの理論の誕生と発展の歴史もまた100 年足らずのことなのです。複素演算が初めて登場したのは 直流・交流論争が交流有利に傾きつつあった1893 年(Arther Kennelly とCharles P Steinmetz が別々に提 唱)ですが、それが電気技術の本として初めて登場したのは1900 年ごろのことです。また対称座標法が 初めて登場したのが1918 年(C.L.Fortescue)ですが、これが実用的な理論として使われ始めたのは1926 年以降の昭和時代ことです。 dq0 法(R.H.Park)が初めて登場するのは1928 年ですが、この理論が実用 理論としてしっかり根付いたのは大戦後の1945 年以降といてもよいでしょう。

私は上述の①複素演算(いわゆるjω )、②対称座標法、➂dq0 法(Park 理論) に加えて、④pu 法(perunit) ⑤Laplace 変換&伝達関数 ⑥サージ理論 ⑦αβ0 法(Clarke components) を“電気屋の七つ道具”と 称しています。 そのほかに戦後の1947 年ごろに登場した⑨距離継電器で使うR-X 座標とか、⑩パワ エレ関連の記述計算法なども大切なtool として追加すべきかもしれません。

  ところで、大学の電気系の学科では全体の基礎となる電磁気学の学習と並行して、上述の演算法として ①複素演算( jω )法と⑧パワエレ回路理論などについては学ぶ機会もあるでしょう。 ところが②対称 座方法➂dq0 法をはじめとして④⑤⑥⑦等の理論体系については三相回路を扱う重電系の電気技術者に とっては必須であるにもかかわらず大学でじっくり学ぶ機会は殆どないといえるのではないえしょうか。 大学で学ぶ機会のなかった理論については企業教育で組織的に学ぶ機会があるかといえばそれも一般論 としてはこころもとない。 そこで重電系の仕事に携わる大方の技術者は「自分で必要な知識は自分で OJT 的に学ぶしかないが難しい。」という厳しい現実に直面することになります。 そして「なんとなく 知っていていまいちわからない」と感じ、さらには「仲間も似たり寄ったりで教えを乞うのもままならない」ということにもなります。  これは私自身が若かりし時に経験した実感ですが、皆さんも概ね同様の状況ではないでしょうか。

  機器の発注仕様書に登場するImpedance定数の指定はどうしたらよいのか?  設備増設計画でサイジング目的で行う負荷電流流計算、短絡電流計算(簡単な回路の筆算を行うにせよETAP等で大規模な回路計算を行うにせよ) の入力データはこれでよいか? 計算結果は正しいか? 遮断器・避雷器の仕様指定はこれでよいのだろうか? 保護リレーの選定と整定はこれでよいか?  安定度限界計算と保護リレーの動作協調に見落としはないか? 高調波等の問題は生じないか? 事業所構内の過電圧とか絶縁協調上の問題はないか? ・・・。
  個々の技術者が抱える技術課題に対するマジック的解決法などはあるはずもなく、ただ地道に自分の技術的知見を増やして柔軟な応用技術力を磨くしかないのですが、 それにはまずは前述の七つ道具に対する理解を深めることが非常に大切ないのではないでしょうか。 なぜならば、我々技術者は電気電力を定量的に扱い、 また電気の振る舞いを正しく予測ないし理解することが仕事であり、上述の七つ道具はそのための必須理論体系であるからです。

     自分も必ずしも自信が持てないと考える皆さん。“もしかしてあなたは“食べず嫌いではないですか?”と問いたいです。  ほんのちょっとしたきっかけで“大嫌いだった納豆やピーマンが大好物になった。” “長い間苦しんだ疑問が小さなヒントで一瞬に氷塊した。” という体験は誰もが持っていると思います。  子供のころ自転車に乗れるようになるまでに擦り傷を沢山作って泣きべそをかきますが一旦乗れるようになると、今度は自転車で転ぼうとしても転べるものではありません。  要は小さなきっかけでコツを抑えることで難問が氷塊できて、難しかったことが実に簡単なことになり、生涯忘れることがない自分の実力になるのです。   次号以降では皆さんの理解に役立つちょっとしたヒント・コツを提供することに心がけながら電力・動力システムの様々な表情や理論ツールの考え方につて 私なりの技術徒然草を書き綴ってみたいと思っております。ご期待ください。 (2020-05-20長谷良秀)
 
     
 
 
 
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