電力技術理論徒然草 No.12 (長谷良秀) 
     
 
対称座標法(Symmetrical Components:012 法):その5

  前回No.10,11 では対称座標法の基本的考え方と、1線地絡の場合2 線短絡の故障計算について解説し ました。 今度はa 相断線、bc 断線など断線モードの故障計算について解説します。
  送電線なんて断線しない。何故そんな計算が必要なのか?などといわないでください。 例えば遮断器 が単相再閉路中の時間帯であるとか、遮断失敗した場合、また工場負荷回路のFuse が1 相切れればこれ はいわゆる断線モードです。 また三相短絡が生じたとして、遮断器は3 相同時遮断指令を受けて機械 的にはほぼ同時に開極しますが、実際にはアーク電流は流れ続けて、第1 相(a相)の電流ゼロ点で第1 相電流が切れ、それより5ms(90 度)ほど遅れてbc 相が遮断されます。電気的には第1 相が先行で遮断 し他の2 相は少し遅れて遮断します。したがってこの約5ms の時間帯ではa相断線モード状態であり、 a相遮断器の極間(固定接触子と可動接触子の間)には過大な過渡回復電圧(Transient Recovery Voltage: TRV)が発生します。 過渡電圧TRV の絶対値も大きいですが波形が非常に急峻でRRRV(the Rate of Rise of Recovery Voltage:TRV の時間微分値)も非常に大きい。 遮断器が遮断成功するかどうかは遮断 器が1 線断線モードとなるこのわずか5ms の時間帯に過渡的に発生するTRV とRRRV にその極間の絶 縁耐力の回復が打ち勝つかどうかで決まるといえます。 対称座標法はこのような遮断現象やその時に 発生するµsec オーダーの開閉サージの解析計算の基礎ともなるのです。

12.1 bc相断線状態の計算
  Fig.12.1a を参照してください。三相回路ある地点fで3 相遮断をしたところa相が遮断できず、bc 相断線の状態が生じたとします。遮断器の左側を点p,右側を点q と名付けることにそます。 (a 相基 準で定義した)対称座標法計算を行うのですから、実際に断線している相名がabc あるいはUVW のどれ であれ解析では断線した相をa相として解析することを忘れないでください。 また、すべての変数は複 素量であることも当然です。図でp より左側回路を見る対称分impedance をpZ0,pZ1,pZ2とし、またq より右側回路を見るimpedance をqZ0,qZ1,qZ2としてこれらは既知であるとします。 電源・負荷の有 無は関係ありません。
  はじめに遮断直前においてabc相電流がどれだけ流れていたかを確認しておきましょう。この状態で は正相回路だけを考えればよいのですから

となります。
  さて、f 点のbc相断線における相電流ia,ib,icと遮断器接触子間電圧va,vb,vcを図12.1a のように名付 けます。

  となります。 bc 相断線の境界条件(12.2)は012 領域では(12.3)になることが分かりました。   さて当該の正逆零相回路で式(12.3)を満足するような結線方法はFig.12.1b のようになります。これ で対称座標法による等価回路が求められました。

遮断器に流れる電流i012,極間電圧v012が計算できました。あとは上記の電圧電流をabc 相量に逆変換する だけであり答えは次式のようになります。

a相に流れる電流iab相およびc 相の極間に生ずる電圧vb,vc(回復電圧:Recovery voltage)が計算出 来ました。
そこで簡単なクイズです。遮断失敗になった状態でa 相に流れる電流ia は遮断前に流れていた電流の何倍 になるでしょうか? 式(12.1a)と(12.5a)を比較するだけですから3Z1/(Z1+Z2+Z0)倍になります ね。 仮に中性点直接接地系をイメージしてとすればiaは0.75 倍になることを確かめてくださ い。 また高抵抗接地系をイメージしてとすればiaはほとんど流れないことになります。 また式(12.5b)により、極間の回復電圧vb,vcは遮断直前に流れていた電流の大きさに比例することも明 らかです。

12.2 1線(a相)断線状態の計算
  さて、皆さん、今度は1線(a 相)断線の場合の計算を自身で行ってみてください。
  この場合の境界条件と対称分等価回路図だけを答え合わせとしてFig.12.2a Fig.12.2b を示しておき ます。

2020年12月8日 長谷良秀
 
     
   
     
 
 
 
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