Per Unit 法と変圧器の等価回路式:その1(単相3 巻線変圧器の場合)
コロナ第1 波の真っ最中の昨年4 ⽉に三井⽒の提案でこの私流の技術徒然草をスタートさせてか
ら早や今回で13 回⽬となりました。果たしてどの程度の⽅々にご覧いただいているか? また多少
はお役に⽴っているか? というような反響やご意⾒が全く私には届きませんのでまあ勝⼿に⾃⼰
流を貫いて新年も思いつくままに書き進めていきたいと思います。
令和3 年,⻄暦2021 年正⽉はコロナの再爆発で関東4都県の緊急事態宣⾔の再発令で始まり、先
が全く⾒通せない不安なスタートとなりました。 医療崩壊・失業・倒産・学校閉鎖・・、国中で悲
惨な状況で溢れています。 それでつい話題の隅に追いやられがちですが今年はあの2011 年3 ⽉11
⽇、⼤地震・⼤津波そして福島原⼦⼒1F の被災による放射能汚染という⼤惨事から10 年です。 私
達がこの10 年間に経験しつつある世界規模での社会全体の様々な⼤激変を振り返ってみると時代の
変化時計がどんどん加速しつつあるように思えてしまいます。テレビの番組で作家の塩野七⽣さん
が「・・・、歴史って全部そうなんです。誰もが全く予想していなかったことばかりなんです。想定
外の連続なんです」と語っていました。本当にその通り、10 年前もそして今も私たちはその超ド級
の出来事に⽴ち会っているのであろうと思います。
さて本題です。 No.12 までで電⼒システム理論として、あるいはその解析理論として必須の対称
座標法について基礎的な解説をしてきました。 次にはPU 法(%表⽰法)と変圧器の取り扱いにつ
いて解説したいと思います。
13.1 単相回路のPer Unit 法
まずは単相回路のPU 法から始めます。 私達はMKS 有理単位法によって電気量を下記のような実
⽤単位で表現します。

上式は瞬時値としても成り⽴っているので時間関数であることを強調してV(t)などと記載してもい
いのですが煩雑なので(t)の記載は省略します。
さてこれらの電気量
V, Z, I, VA をPU 化(英語ではunitization と⾔います)するためにはそれぞれの
電気量のbase 量
Vbase, Ibase, Zbase, VAbase を設定する必要があります。 電圧300volt は電圧のbase 量と
して
Vbase = 100volt をとすれば 3.0pu に、また
Vbase = 1000volt とすれば 0.3pu ということになります。
さてそのbase 量を決定するにあたって下記3っの簡単なルールがあります。

その考え⽅はFig13.1 のように表現できるでしょう。
具体的に考えます。 まず
VAbase (単位は
volt・ampere)と
Vbase(単位は
volt)をscalar 値として決定し
ます。次に
Ibase ,
Zbase は式(13.2a)あるいは(13.2b)が成り⽴つように決定します。

これで
V/Vbase,
I/Ibase 等の形となって全ての電気量がPU 化されて、また関係式として元
の形が保全されています。 ただこのままでは表記法として煩わしいのでこのコラムでは
PU 化された電気量は変数にupper bar を付けて表現することにしましょう。式(13.3)は次式
のようにシンプルに表現できます。

実⽤単位の電気量
V,I,Z,P,Qの複素数関係式がPU化されて無単位の電気量

の複素数関係式に置き換えられました。 なお、base量としてscalar(あるいは位相∠0°の
vector)を設定していますからPU化された後の式(13.4)においてもvector としの⼤きさと位相関係
等は保全されていることに留意してください。 また各変数のbase量を私たちは知っていますから
必要に応じていつでも次式を使ってPU値から元の実⽤単位値に戻すことができます。

単相回路のPU法の説明は以上です。 次項で変圧器の式を実際にPU化してみましょう。
13.2 単相3巻線変圧器のPU関係式
Fig.13.2(a)に⽰す
単相3巻線変圧器(ただし変圧器の励磁impedance とcapacitance を無視したモデ
ル)の関係式について検討します。1次(Primary),2次(Secondary),3次(Tertiary)の3 つの巻線にはそれぞ
れ⾃⼰self-inductance とmutual-inductance があるからその1次,2次,3次巻き線側の電圧および電流
(これらは全て複素量)の関係式は実⽤単位で次のように表現できます。

複素電流

の向きをすべて流れ込む⽅向に約束していますのでこれらの
Ampere・turn 総数はゼロになりますから式②が成り⽴ちます。
さて次には上式のPU化を⾏いましょう。PU化にあたって鉄則としてまず1次,2次,3次巻線ごとに
容量base と電圧base を決定しなければなりませんがここで変圧器のbase 量の決定法として守るべ
き原則があります。

原則①によって1次,2次,3次巻線容量baseは統⼀値VA
baseとします。 また原則②によって1次,2
次,3次巻線側の定格電圧をそれぞれのbase量として
PVbase, SVbase, TVbaseのように設定します。つま
り次式(13.7)の①②が成⽴するように3 っの巻線の容量base と電圧base を決定します。

PU化によって式(13.7)①では(13.6)①の形がそのまま変わることなく保全されており、また(13.7)②で
は変圧器の1次,2次,3次複素電流の合計値がゼロになって,あたかもKirchhoff の法則が成⽴するよう
に表現できることがわかりました。PU 化による決定的に⼤きい利点です。
さて、1次,2次,3次複素電流の合計値がゼロになどのですから、PU 化することで変圧器の等価回路
を図13.2(b)のように3 っの分岐回路impedance

からなる回路として表現できそうです。
それにはFig.13.2(b)と式(13.8)①が⼀致するように

を決める条件を導き出せばよいですね。 そのための条件としてまず3 次側開放の条件

においても両者が⼀致する必要があります。

とはほかならぬ"
3次側開放状態における1次,2次間impedance"であり、これは変圧器
銘版にも記載され出荷試験でも必ず測定するimpedance そのものですからですからこれを

と表記することとします。
さらに、2次巻線開放の場合と3次巻線開放の場合についても同様の⽅法で上述の両式が⼀致する
条件を⾒出します。
結局、下式(13.10)の関係が満たされるように

定めることによって式(13.8)の関係式と回路図Fig,13.2(b)は等価とすることができることになります。

をFig.13.2(b)の如くに表現できるということになるのです。
さて、3種類のimpedanceが登場したので最後に整理をしておきましょう。

・・等は1次,2次,3次巻線の構造と相対的配置関係から決まるimpedanceであり、こ
れは変圧器設計者が知っておればよいimpedanceです。 次に

は銘版にも記載されており、⼯場試験、現地竣⼯試験試験でも必ず測定される1次,2次間、1次,3次間、2次,3次間の
impedanceであり当然誰もが知りうるものです。 最後に等価回路13.2(b)に登場する

は変圧器を含む回路計算でのみ使⽤する等価impedance ですから解析実務者にとって重要です。
ところで 「

は物理的に何を意味するか?」と問われれば、「銘版記載で出荷試験でも測定される

より式(13.11)のように定められた値」と答えるしかありません。物理構造的な意味を⾒つけるのは無意味です。
今回はここまでとしましょう。次回は3相回路のPU法と3相変圧器について解説します。
2021年1月7日 長谷良秀