電力技術理論徒然草 No.16 (長谷良秀) 
     
 
交流回路の電力とは

  この電力技術徒然草の第1 回は昨年4 月、Covid19 コロナで日本も世界も最大級の混乱 状況に達した時期に配信されましたが、あれから早や1 年が経過しました。 前回までの 15 回のシリーズを何人の方々に読んでいただいたのか?また読んでいただいた方々の感想 等がいかがなものであったか?等のことをお聞かせいただく機会がないのが残念ですが引 き続き書き続けさせていただきます。
  No.13-15 では変圧器の(商用周波数領域における)回路理論について解説しました。これ からはいよいよ発電機(同期機)の回路理論とその応動特性について解説する段階が近くな りました。今回No.16 はその準備段階として交流回路の電力What について解説します。

16.1 クイズ“交流回路の電力”とは
  電力システムは発電システム(BTG:Boiler-Turbine -Generator)・送電線・変電/配電設 備(制御/保護系を含む)・負荷系等が無数に構成メンバー(あるいはElements)として組み 合わされた統合システムです。 ところでその電力システムは50/60Hz の商用周波数領域 (*1)において様々な静的(Static)/動的(Dynamic)振る舞い(Dynamic behavior)をしますが、 そのシステム特性・応動の多くは発電機の応動特性に起因する場合がほとんどといっても 過言ではありません。無数のElements の中で電気・電力Power を造り出すPositive な役 割を果たすElement は発電機のみであり、それ以外のElements はPower を送る・加工する 消費する等の目的をもった繋ぎ網の役割を果たすわけですから当然ですね。従って 発電機の応動特性をしっかり理解することが電力システムを理解するうえで欠かせないと いうのも当然のことです。これから何回かに分けて発電機の回路理論とダイナミックな応 動特性等についてできるだけ詳しく解説していきたいと思います。

  ところで普段何気なく当たり前のように使っている電力という言葉に関連して次のよう なクイズに皆さんはどのように答えますか?

Quiz1: 回路内の任意の点x における交流の電圧v(t)電流i(t)は正弦波時間関数の波 形であり、電圧も電流も2 分の1 サイクル毎にその向きが変わっている。しかるにパ ワーが点x を通過して一方向に伝達できるのはなぜか? 交流でなぜパワーが遅れるの?

Quiz2: 発電機の出力は皮相電力 と表現されて、原動機から供給される電 気入力が変換された有効電力P(MW)のほかに無効電力Q(MVar)を含むのはなぜか? そもそも無効電力Q とはなにですか?

  この二つのQuiz に正確に答えることが難しいと感ずる諸氏も多いのではないでしょうか。 発電機の詳しい理論に入る前にまずこのクイズに答えを出しておきましょう。

16.2 有効電力&無効電力と瞬時電力
  まずはQuiz1 についてです。或る交流回路の任意の点x における電圧・電流の瞬時値を次 式のように表すことができます。



この時の瞬時電力をP(t)で表すとすれば次式を得ます。



得られた瞬時電力の右辺第1 項は時間t を含まない一定値(+または− の直流値) Ve・Iecos(α-β)であり、第2 項は角周波数(周期 180度)の正弦波であり、90 度毎に その極性が入れ替わる周期変化をすることになります。 したがって式(16.2)の示す瞬時 電力は図 16.1 のように時間的変化をするのです。 は周期時間帯(α−β)/ωで 負値、それ以外の時間帯で正値となって毎サイクル極性が入れ替わり毎サイクル毎に電力 の流れが反転することを意味します。
瞬時電力は商用角周波数の 180 度毎に 1 度その向きが変わることになりますが、第 1 項のVe・Iecos(α-β)だけ直流的にオフセットしていることになります。 それ故に の周期平均値は正ないし負の一定値Ve・Iecos(α-β)となります。 そこで万国共通の規格 によって{交流瞬時電力の時間平均値を交流の電力Pと称する}ように定義したので す。電力の取引き目的にも設備のSizing など技術的な目的にも電力P で十分なのは自明ですね。

また上式のcos をsin に置き換えた値を無効電力Q として定義したのです。

さらにEuler 公式ejx = cos x + j sin xを利用して皮相電力(Apparent power)を次式のよう に定義します。

式(16.3a)(b)(c)は有効電力P ,無効電力Q ,皮相電力S の国際標準規格による万国共通の統 一定義です。
なお、以上の説明では瞬時電圧電流を実数量v(t) , i(t)として扱ってきましたがもしもこれ らを複素量として表現する場合にはどのようになるかを確認しておきましょう。



さて,Quiz1 に戻って考えましょう。 交流回路ではある地点xにおける電圧v(t)によって 電流 i(t) = dq(t)/tが流れる(電荷q(t)が導体の一方向に移動させられる)ことになり、そ の地点x、その時tの電荷を移動させるに要する電気パワーが瞬時有効電力という風に 理解できます。そしてその瞬時有効電力は毎周期毎に区間(α−β)/ωとそれ以外の区 間でその極性が反転するのですから、これは電気パワーの移動方向が各周期毎に反転して いると理解できます。 しかし瞬時電力の平均値と定義された有効電力Pは時間tに 左右されない正か負のいずれかにオフセットした一定値であり、平均電力P の向きは一方 向に決まっています。無効電力Q ,皮相電力についても事情は同様です。

16.3 任意波形の電圧電流に対する皮相電力の拡張定義
  次には或る地点の電圧,電流が電源周波数f = ω/2π以外に高調波や直流分を含んでいる 場合を考えてみましょう。 この状況での瞬時値としての電圧, 電流 , 皮相電力 を複素表現すれば,



ところがこの場合も電力を周期平均値として定義すれば当然次式のようになります。



“有効電力P は同一周波数の電圧と電流の積の集合“として表現されております。“周波数の 異なる電圧と電流の積は周期平均をした平均電力には寄与しない” のです。 “50Hz の電 圧と第k 調波(周波数kx50Hz)の電流の積も平均電流に寄与しない“ということにもなり ます。 無効電力Q についても同様です。
  式(16.6a,b,c)は電圧電流の“50/60Hz 成分のほかに直流成分や高調波成分が含まれる場合 に拡張した電力の定義式“ということができます。 ただしIEC やJEC などの規格では商 用周波数(50/60Hz)電力について定義していますが高調波等を含む場合の定義までは していませんので、私が”高調波を含んでいても拡張定義ができますよ“と補足説明している だけと理解してください。
今回はここまでとしましょう。
最後にコメントを一つ、今回の説明では有効電力と共に無効電力についても式などで説明 してきましたが、無効電力What?については説明ができていません。 それは次回にQuiz2 について考える中で説明をいたします。
2021年4月5日 長谷良秀
 
     
   
     
 
 
 
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