電力技術理論徒然草 No.17 (長谷良秀) 
     
 
発電機の理論 その1:単相発電機(同期機)

17.1 単相発電機の基本構成
  発電機と云えば通常は三相発電機を意味しますが、その前にまずは単相発電機についてその基 本構造と原理、そして回路理論を丁寧に解説してみたいと思います。
  図17.1(a)は単相発電機(同期機)の基本構成を示す模式図です。Rotor-coil(界磁巻線)には 外部のパワエレ回路からSlip-ring を介して直流電圧Efdが加えられることでRotor が直流電磁 石となり、磁束はRotor(回転子)N 極から発してStator 側磁路を経てS極にもどるループを構成 します。Rotor とStator(電機子)は基本的に磁気抵抗の小さい方位性積層ケイ素鋼鈑で構成され ており、Rotor N極から発したほぼすべての磁束φ(t)は2か所の空隙(Air-gap)とStatorの磁路 を経てRotor S 極にもどります。Stator ケイ素鋼鈑磁路の表面近くにはCoil を収納する溝 (Coil-slot)が掘ってあり、Stator-coil が空隙に沿って規則正しく配置されています。 この ような構成ですから原動機(水車・タービンなど)の機械力でRotor を回転させればRotor で造 られた回転磁束がStator のコイルを鎖交してStator に電圧を発生させます。 ここで大切なの はFaraday の法則「磁石を動かすと磁束が動く。その鎖交磁束数の変化速度に比例した電圧がコ イルに発生する」です。数式で表現すれば下式の通りです。

以下の説明では磁束数をφ(t)で、また磁束数に巻き回数を掛けた鎖交磁束数をΦ(t) = n・φ(t) ( n はCoil 巻き回数)で記すこととします。

  図17.1(b)は(a)をさらに簡略化して変圧器のように表現した模式図です。発電機は①「磁石 が角速度ω=2πfで回転するので Stator と Rotor の相互位置が周期的に変化する」および② 「鉄心磁路に2 か所の空隙(Air-gap)がある」という点を別とすれば変圧器と同一原理の電磁機 械であることが理解できます。 図17.2 は実際の火力用三相発電機を輪切り状態の磁路を示し ており磁路はStator 表面近くのCoil を通り抜けて奥深くに達しています。 三相機も単相機も 磁路の基本構造はもうほとんど同じですね。

17.2 単相発電機の理論
  さて単相発電機の理論式を厳密に検討していきます。 以下の説明ではStator 側とRotor のField-coil側 の電気量にはそれそれ添字 Sfd を付けて表示します。 様々な電気量が登場し ますが主な電気量として下記の如く記します。

Efd, ifd(t) :外部直流電源から与えられる界磁回路の電圧と電流。なお、電流は「 ifd(t) が流 出( -ifd(t)が流⼊)」とする。

es(t) , is(t) :発電機端⼦電圧,電流。なお発電機電流は「is(t) が流出」と表記する。

φcore(t) :鉄⼼を通る主磁束。全ての coilは鉄⼼に巻かれているので主磁束と鎖交している。

Φfd(t) = nfd・φcore(t), vfd(t) :Field-coil の鎖交磁束数と起電圧

Φs(t) = ns・φcore(t), vs(t) :Stator-coil の鎖交磁束数と起電圧

たとえば vs(t) 側電圧の時間 t における瞬時値(実数表現)であり、upper-dot を付した はその複素数表現であることを強調しています。 定常現象・過渡現象のいかなる状態で も成⽴する瞬時値理論であることを強調するために時間関数であることを⽰す(t)を省くことな く付して説明します。 以下では⼤きく三つのステージに分けて理論式を吟味していきます。

Step1鉄心磁路に巻かれた二つのCoil(巻線)としての関係式
  Rotor coil(巻き回数nr)はRotor の鉄心磁路に巻き込まれており、外部パワエレ回路からSlip-ring を介して直流電圧Efdを得て電磁石として直流磁束を造ります。 Stator- coil(巻き回数ns) は空隙に沿ってStator 鉄心の表面近くのCoil-slot 内に配置されています。 Rotor N 極を発し た全磁束のうちの大多数の磁束はStator のCoil-slot を超えて外周の鉄心部にまで達する磁路を 経てRotor S 極に戻る磁束、すなわちStator-coil にも鎖交する磁束となります。 この磁路を通 る磁束を主磁束(φcore(t)で表わすこととします)といいます。 主磁束はもとより Rotor の全 巻き回数(nr回)と鎖交しており、さらにStator の全巻き回数(ns回)とも鎖交している磁束 です。 換言すれば「主磁束の磁路にはStator-coil とRotor- coil の全ての巻き回数が巻き込ま れている」ともまた「主磁束にはStator-coil とRotor- coil の全ての巻き回数が鎖交している」 ともいえます。
  したがって次式が成り立ちます。

  また Faraday 則v(t)=dΦ/dt=n・dφ/dtであることに留意して上式の微分形として次式が成 り立ちます。


  次にパワーの保存則について考えます。Rotor 側の瞬時パワPfd(t)は電圧vfd(t) と電流ifd(t)に 比例してPfd(t)=vfd(t)・ifd(t)であり、Stator 側の瞬時パワーも同様でPs(t)=vs(t)・is(t)です。 また我々は理想変圧器(鉄心の熱として消費されるパワーを無視している)と同じ電磁回路を考 えていますから一方のパワーが他方に伝わるときにパワーの保存則が成り立ってPfd(t)=Ps(t) となります。したがって次式が成立します。


以上の関係式は単相2 巻線の理想変圧器の関係式と全く同じですね。鉄心に巻かれた二つのコイ ルという意味で同じ理屈になるのは当然です。

さて、以上の式では電気量(変数)はすべて実数瞬時値で表現しましたが、複素瞬時値で表現する こともできます。 各変数にupper-dot を付して複素数表現をしてみます。

瞬時値複素表現


  Stator-coil のvs(t), is(t) とRotor coil(界磁コイルField- coil とも云います)のvfd(t), ifd(t)およ び両Coil と鎖交する主磁束φcore(t)には式(17.6)の各関係式が成り立つということです。

Step2Rotor 側回路の関係式
次にはRotor 側の回路(電流通路)としての状況を考察します。
パワエレ外部電源からRotor 側の界磁コイルに直流電圧 Efd が(Slip-ring を介して)加えられて直 流の界磁電流 Ifd が流れ直流磁束 Φfd が造られます。ただし、界磁コイルの抵抗 rfd による電圧降下 分 rfd・Ifd はコイル内で熱として消費されて磁束造りに寄与しないので鉄心の励磁に役立つ正味の 直流電圧は (Efd-rfd・Ifd) ということになります。これは直流量なので(t)を付していません。
この Rotor が原動機の機械入力によって角速度 ω=2πf によって回転させられるので Rotor の 界磁電圧,界磁電流,界磁磁束は静止しているStator コイルの静止系から見ればそれぞれ回転速度 ωで回転する電気量となるので数式としては回転Vector-operator ejωt (*1) をかけて次式のよう に表現できます。Rotor-coil の正味の界磁電圧とそれによってRotor-coil で生ずる鎖交磁 束数は次式で表現できます。





さて、Rotor 側で造られ,鎖交する回転磁束の過半は鉄心を介して Stator-coil とも有効に 鎖交する主磁束となりますが、ごく一部(例えば数%程度)の磁束は Stator coil に鎖交することなくN 極からS 極に戻ってしまいます。Rotor-coil の漏れ磁束で す。 そして造られた磁束の総量から漏れ磁束を差し引いた磁束が主磁束となります。


右辺第2 項は界磁回路の抵抗と漏れインダクタンスによる電圧降下分ですね。界磁電圧Efdejωt から漏れインダクタンス lrleak と抵抗 rfd による電圧降下分を差し引いた電圧が主磁束を造 る役割をするということです。
なおこの式は複素瞬時値の関係式として任意の時間t で成り立ちます。
定常状態での関係式は d/dt を形式的に で置き換え、またIfdejωtで置き換えることで次式を得ます。


なお EfdIfd は時間に無関係の直流量ですから EfdejωtIfdejωt も同一位相角度で回転します。
さて、Rotor 側の回路として求めた式(17.11a,b))のは鉄心を通過する主磁束(Stator コイルとの鎖交磁束)を作ることに寄与するRotor の正味の誘起電圧と界磁電流であり、式(17.6) に登場した,同じです。

Step3Stator 側回路の関係式
次はStator 側回路の式です。Rotor の回転磁界によってStator 側coil には式(17.1)~(17.6) の関係式で得た誘起電圧が生じます。それによって発電機端子電圧が生じ、また負荷 が繋がっておれば電流が流れます。 このStator 回路の誘起電圧,端子電圧 ,端子 電流の関係式は下式となります。



Stator coil 側にも(Stator coil にだけに鎖交してRotor-coil に鎖交しない)漏れ磁束が若干生ず るので漏れインダクタンスLsleakによる電圧降下と抵抗rsによる電圧降下分がから差し引 かれた電圧が発電機端子電圧となるのです。

Step4発電機の全体の関係式
式(17.12a)と(17.10)を(17.6a)の関係で結び付けてRotor 界磁回路端子とStator 端子の電 圧・電流関係式として整理すれば次式を得ます。


上式でRotor 側の電圧もStator 側の電圧も鉄心を経路とする主磁束の変化速度 に比例しており、当然のことながら Faraday の二つのコイルに関する第 2 法則の通りです。
なお、上式をPU 化すれば(*2)煩わしい巻き回数 nsnfd が消えて次式(17.14)を得ます。また定 常現象を知るだけでよければは d/dt に置き換えることができます。



  さて、単相発電機の関係式と等価回路の解説は以上です。 発電機の構成と関連して長々と解 説した関係式も得られた図17.3 の等価回路も単相変圧器の場合と殆ど同じですね。 変圧器の 場合はPassive 機器ですから図17.3 の電源 Eejωt を系統側から受け取るのに対して発電機では Rotor が原動機の回転力とパワエレの直流電圧 Efd を得て回転電源を自ら造っている点 が異なるだけです。
  実はもう一つ重要な相違点があります。 変圧器では1 次巻線と2 次巻線の相対位置が時間 的に変化しないので主磁束(起磁力と云い代えても良い)も漏れ磁束も一定です。 ところが回 転機では両巻線の相対位置が Rotor の角度 ωt によって変化するために主磁束が図 17.4 のよう に180 度周期で多少周期変化するのです。即ち次式のようになります。


  ω=0°, 180°で主磁束(起磁力)が最大、漏れ磁束が最小になり、ω=90°, 270° で主磁束が最 小、漏れ磁束が最大になるということです。 インダクタンスが固定値のならないことはちょっ と困ります。この点については次回以降で詳しく吟味することとしましょう。
  *2)PU 化にあたってはStator 側とRotor 側の容量base は同一値に、また電圧base は巻き回数 の比率 ns/nr に一致するように選択します。その結果PU 化した式では巻き回数を消すこと ができます。

(2021年7月11日 長谷良秀 記)
 
     
   
     
 
 
 
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