発電機の理論 単相発電機(ダンパーなしモデル)その2
18.1理論の続き
前回のNo.17 で単相発電機の
発電機の全体の関係式 式(17.13)を導きました。図と式を再録します。
Rotor 界磁回路端子とStator 端子の電圧・電流関係式を複素変数で表現しています。

式中の

は全てのコイルと鎖交する鉄心主磁束です。なお、Stator-coil とRotor 側 Fieldcoil
の漏れインダクタンスは180 度の周期関数として変化するのでそれぞれ時間関数
lsleak(t),
lfdleak(t)として表現しています。

ここで重要な補足をしておきます。
補足)磁束数φ と鎖交磁束数n・φ, アンペア Aとアンペアターン A・n
磁束数
φを
n回巻きのコイルで取り囲んでいるとき、鎖交磁束数は
n・φです。 MKS 単位系で
は巻き回数
nは無単位として扱うことになっていますので磁束数
φも鎖交磁束数
n・φもとも
にウエーバ
[Wb]になってしまいますが電磁機械の理論では厳密に区別する必要があります。
後で出てくる電流のアンペアiとアンペアターン
n・iについても同様で、昔は後者の単位とし
て Ampere-turn
[AT]とも書きましたが、現在ではnが無単位なので両者ともに単位は
[A]で
す。 ただ両者は個々の文脈のなかでしっかり区別する必要があります。
ところで、一般論として
インダクタンスl(t)は
鎖交磁束数Ψ(t)=n・φ(t)と
電流i(t)の比例係
数として定義されており、MKSA 有理単位法では
Ψ(t)=n・φ(t)・i(t)、またその微分系とし
て
v(t)=dΨ(t)/dt=n・dφ(t)/dt=n・d(l(t)・i(t))/dtとも表現されます。なおインダクタンス
Lの単位ヘンリーは
[H]=[Wb/A]となります。
そこで今度は図18.1 のmodel についてちょっと別の観点から考察してみます。Stator-coil と
Field-coil は主磁束を介して相互にcoupling していますので、両コイルの鎖交磁束数は次のよ
うに表現できます。

行列式で整頓すれば
lSS(t),
lffd(t)は両コイルの自己インダクタンス、
lsfd(t)は両コイルの相互インダクタンスです。
上式を微分すれば

式(18.3)

等は式(18.1)中の

と同じですから両式で
これらを消去すると次式を得ます。

さて、両コイルの端子電圧

電流

それに両コイルの自己インダクタンス
lss(t),
lffd(t),相互インダクタンス
lsfd(t)および漏れインダクタンス
lsleak(t),
lfdleak(t)だけの式
を得ることができました。 ところがこの式の右辺はこれ以上簡単に整頓できないのです。
微分の公式を思い出してください。

インダクタンス
lss(t)等が位相角時間
θ=ωtによって変化する場合には下記のような整頓、ある
いは簡易化ができないのです。

インダクタンスが
θ=ωtによって変化するということは理論式としても実務技術の立場におい
てもやっかいなことです。 この問題を克服するには
dq0法が必要になりますが、それは三相発
電機の理論として解説したいと思います。
18.2 インダクタンスの180 度周期変化について
説明を保留してきたCoupling inductance
ls fd(t),
ls fd(t)およびleakage inductance
ls leak(t),
lfd leak(t)の
θ=ωtによる周期変化について吟味しましょう。
図18.1 に示すように回転の中心軸を基準としてStator は点対称、すなわち360 度の全方向に
同じ磁路、同じ磁気抵抗の構造です。 ところがRotor は点対称ではなく、
d 軸と
q 軸を基準と
して180 度の線対称の構造になっています。 そして空隙Air-gap 磁路長はd 軸方向(磁石の方
向)でやや短く、
q 軸方向で長くなっています。さらにRotor 鉄心は
q 軸方向よりも
d軸方向に
磁束を通しやすい方位性鉄心で構成されています。 したがってRotor
N 極⇒空隙⇒Stator 鉄
心磁路⇒空隙⇒
S 極という磁路の磁気抵抗(磁束の通りにくさ)は回転位置
θ=ωtの関数として
180 度周期で変化し、
d 軸の方向(
θ=0°,180°)で最小、
q軸方向(
θ=90°,270°)で最大とな
るのです。 Rotor 構造は半周回転で磁気抵抗が同じ状態に戻る180 度の対称構造ですから
ls fd(t),
ls fd(t)は回転角180度の周期関数であり
θ=ωtの偶関数になることも明らかです。 と
ころで数学定理として角度変数θとする任意の偶関数
l(θ)は Fourier 展開すると次式のように
なります。

この公式の右辺第2 項は180 度毎に同じ状態に戻る成分項であり、第3項は90 度毎、第4 項は
60 度毎にもとに戻る成分項です。 このことを
ls fd(t)等に当てはめて考えてみると、磁路の状
況(磁気抵抗の変化)は が180 度回転するごとに同じ状態になるので
cos2θの成分は含むこと
になります。 その一方でこの発電機には磁路の状況が90 度毎、あるいは60 度毎に繰り返すよ
うな設計構造上の要素はありませんから右辺第3 項以下はゼロとなって結局
l(θ)=L0+L2cos2θの形になるはずです。 したがって次式となります。
2つのコイルのCoupling inductance の式

二つのコイルの Coupling (相互インダクタンス)は
ωtが 0 度と 180 度で最大、90 度と 270
度方向で最小になる(図18.2)ので第2 項の符号をプラス(+)としています。
さて、以上で二つのコイルの相互inductance が式(18.6)の形となることの説明は完了です。
ただこれだけでは
l(θ)の中の
Ls fd0や
Ls fd2などの大きさがどのようになるかの説明にはなって
いませんから説明としては不十分です。 説明をさらに続けます。
一般に
磁束
が
nターンのコイルを切って
鎖交磁束数
が生ずるとこれに比例する起
電圧
が生じ(Faraday 則)、さらに負荷回路がつながっておれば
電流
が生します。 そし
て

と

の比例係数を
インダクタンスl(t)
と定義していますので

の関
係にあります。 これとは別に、
アンペアターン
を
起磁力mmf (Electromotive force)
と名付けて、さら起磁力と鎖交磁束数

は絶対値的には比例するのでその比例係数を
磁気抵抗Rと定義してOhm の法則

とする表現法もあ
ります。 ただしこの場合は

と

の位相関係が同一とは限らない
(∵

の位相関係は発
電機外部負荷回路の力率に左右される)のでこの公式は両者の位相関係にこだわらないScaler
表現ということになりますから絶対値記号を使って示しました。 以上の一般論をStator-coil
に当てはめることができます。 すなわち
運転中の発電機S-coil の起磁力

磁気抵抗
RSは
0°~180°の位置で異なるでしょうが、
d軸および
q軸方向の磁気抵抗
Rd,
Rqはそれぞれ固定値(
θに関係しない)として磁路の構造から計算できますし、発電機設
計者にとっては重要な設計条件です。 そこで起磁力の
d軸および
q軸方向成分は次式のように
表現できます。
タイミング
θにおける起磁力の
d軸および
q軸成分

そこでStator 電流

と鎖交する鎖交磁束の総数

を計算すると

Stator-coil のinductance
ls(θ)は図18.2 のように180 度で脈打つ値となります。
発電機の仕様として定格容量や定格電圧・定格電流と並んで reactance値
X=ωLも重要な仕様
の一部です。その impedance が
θ=ωtの周期関数になってしまい、一定値として示すことがで
きないことを説明しました。
インダクタンスが
θ=ωtによって変化するということは理論式としても実務技術の立場におい
てもやっかいなことです。 三相の発電機に置き換えて云えば、
laa,
lab,
lafd等のインダクタンス
値が固定値として決められない(仕様,お品書きが書けない)ことでもあり、またこれを使って
系統回路解析に供することもできないということにほかなりません。
この問題を解消する切り札が
dq0法と対称座標法(
012法)ということになりますが、これは三
相機の理論として次回以降で説明したいと思います。
18.3 発電機の皮相電力S,有効電力P,無効電力Q とは
さて、No.17,18 で単相発電機についてその基礎的理論を解説してきました。 登場した電気
量は磁束数
φ(t),鎖交磁束数

,
起電圧
v(t),端子電圧
e(t),端子電流
i(t)などでした。 登場
した関係式は全て過渡現象の瞬時値としても成り立つ理論式として
(t)を付して解説してきました。
次にはこれらの理論式を電力
P、あるいは皮相電力
S = P + jQとつなげてみることとします。
発電機の回路理論では電圧
v・電流
i磁束
φが主役になりますが最後には電力
P,あるいは
S = P + jQにつなげて理解しなくては発電機を論ずる甲斐がありません。 交流回路の皮相電
力
S = P + jQと瞬時値皮相電力
S(t)=P(t)+jQ(t)についてはNo.16でくわしく 解説しました
ので思い出してください。
一般に電力といえば“定常状態の電力” であって”過渡電力“は特別な場合しか問題にしま
せんので、以下では”発電機が定常状態で運転中の瞬時電力

”について考察していくことと
します。 当該発電機の関係式に登場した発電機端子電圧
eS(t)電流

をNo.16 で行った皮相
電力の解説とつなげてみることとします。
発電機の関係式を長々と展開してきましたが、発電機端子にどのような電流が流れるかは当然の
ことながら発電機側条件だけで決まるわけではなく端子につながる負荷回路の状態との両条件
で決まります。 負荷回路が繋がっていなければ
i(t)=0です。
そこで発電機に
"LとRの直列負荷(力率cosδ)"が繋がっている場合(図18.3)の瞬時電力
P(t)について吟味してみます。発電機の端子電圧
e(t),端子電流
i(t) (
eS(t),
iS(t)の添え字
Sは
省きます)として、発電機端子の定常状態の瞬時値電圧・電流は次式の通りです。

また形式的に
cosδを
sinδに置きかえたものを
無効電力Qとして定義し、さらに複素数表現の
電力

を
皮相電力と定義しています。

No.16から述べてきた単相発電機に関する一連の関係式に登場するStator端子電圧e(t) ,端子電流

と、発電機端子から負荷側までの回路の関係式(18.12a)~(18.15c)を繋ぎ合わせることで発
電機から負荷に供給される電圧・電流・電力がけっていできることになります。
さて、単相発電機に関する一通りの解説は以上です。
最後に、No.16 において記した二つのQuiz について振り返ります。
Quiz1: 交流電圧・電流でパワーが右から左に、あるいはRotor からStator に伝わるのはなぜか?
Quiz2: 発電機の出力は皮相電力

と表現されて、原動機から供給される電気入力が変
換された有効電
P(MW)のほかに無効電力
Q(MVar)を含むのはなぜか? そもそも無効電力
Q
とはなにか?
熱心に読んでいただいた皆さんには既に頭の中に答えがあると思いますが
Quiz2について
私なりの解答を記しておきます。
Quiz2 解答:
この発電機は任意の時間
tにおいて
RL直列回路に式(18.13a,b,c)に示す瞬時電圧
[volt]
e(t),瞬時電
i(t)[A],瞬時電力
[Watt]を供給しています。
機械パワー(=トルク
Tm角速度
ωm)は有効な電気パワー
[Watt]に時々刻々変換さ
れます。
パワー保存則から考えても当然のことです。 ただ式(18.3c)が示すようにReactive
負荷
Lが有っても無くても

は角速度
2ωの脈動成分を含むことになります。当然
Tm x ωm も同じように脈動していることになります。 発電機を擬人化して言い換えれば“私
発電機は負荷がある限り片時も怠ることなく交流電圧
e(t),交流電流
i(t),
[Watt]の
みを負荷に供給し続けています。 ただ瞬時電力
[Watt]は固定成分と脈動成分を含み
ますが脈動成分は周期平均すればゼロになります。 これは個々の発電機とか負荷の特徴と
いうよりは交流回路そのものの本質的特徴ということになります。」
それでは「有効電力
Pとか無効電力
Q、また皮相電力

とは何か?」 というこ
とになりますが、交流回路では瞬時電圧

瞬時電流
i(t)を複素量として表現して

を計算すると都合よく式(18.14c)のようになって瞬時電力から
脈動成分を取り除いた固定成分が複素量
Eeff・Ieffejδとして抽出されます。 そこで便宜上
の理由で固定成分
Eeff・Ieffejδの実数部と虚数部を
“有効電力P≡Eeff・Ieff cosδ” およ
び
“無効電力Q≡Eeff・Ieff sinδ”と定義したのです。 瞬時電力の脈動成分は周期平均
ではゼロになるので特別の場合を除き実用的には電力の固定成分
P + jQのみを扱えばよい
わけです。 そして
Qに対しては
[Var]という単位を使っても良いとしたのです。
結論として
"発電機はいかなる時tにおいても瞬時電力

のみを負荷に供給して
いる。 ただし瞬時電力を周期平均して得られる固定成分が複素数表現で皮相電力

と定義されているので、その意味において”発
電機は複素電力

およびその虚数部を無効電力
jQ≡jEeff・Ieff sinδ[var]を供給して
いる”と言い代えることもできる。 定常運転状態では
Pも
jQも固定値である。"
(2021年6月11日 長谷良秀 記)