発電機の理論 単相発電機(ダンパーなしモデル)その3
19.1理論の続き
前々回のNo.17 において単相発電機(ダンパーなしモデル)の理論解説をして式(17.13)など
を導きましたが“私のうっかり”でちょっと説明の不備がありましたのですっきりさせるためNo.17 を改訂しました。 No.17 修正版をご覧ください。
補足:主な修正箇所は漏れ磁束による電圧降下

に変更した
ことなどです。 なおRotor 界磁回路の電気量の添え字を
rから
fdに変更しています。
さて、Rotor が角速度
ω=θ/tで回転中で、かつ外部パワエレ電源から Field-coil に直流電圧
Efd が印加されている状態での回路式をNo.17 の解説から引用して式(19.1)として再録します。
単相発電機の瞬時値表現の基本式

まず上式右辺の{ }について考えます。Rotor 側
fd -coil に接続された外部直流電圧
Efd からそ
の抵抗
rfd による電圧降下
rfd・Ifd を差し引いた電圧(
Efd-rfd・Ifd)が Rotor 内で回転することで
RotorNS 極の磁束を生じますが、そのうち

はfd-coil の漏れ磁束となってし
まい、鉄心の主磁束とはなりません。したがって上式の右辺{ }がfd-coil 側の有効な起電圧とな
って鉄心主磁束

を造ることになります。fd-coil側の鎖交磁束数は

です。
次に、鉄心主磁束

によって Stator 側 coil の鎖交磁束数は

となります。
そのうち漏れ磁束

を差し引いた磁束数が有効な起電圧

を造ります。
さらに抵抗による電圧降下

を差し引いた

が端子電圧となります。
さて、上式(19.1)はStator-coil とRotor 側Field-coil の電圧・電流(瞬時値)を鉄心主磁束(瞬時
値)を介して結びつける複素数表現の基本式です。 ただ実用的には長すぎるし、またStator 側
の式とRotor 側の式に分けて整頓して表現したくなります。そこでStator-coil とRotor-coil 側の
鎖交磁束数
Φs(t),
Φfd(t) の形で両者を二つに分けて、また複素数瞬時値表現を実数瞬時値表現
に書き替えてみます。

ところでS-coil の自己インダクタンス
lss,fd-coil との相互インダクタンス
lsfdとすれば二
つのコイルに関するFaraday の第2 法則に当てはめて
Φs(t),
Φfd(t) は次式(19.3)のようにも表
現できます。

式(19.3a,b)は(19.1)を書き直しただけであり同じことを意味しています。s-coil とfd-coil
電気量は当然のことながら鉄心主磁束
φcore(t) によってしっかり結び付けられています。
式(19,3a)を微分して(19.3b)に代入することで両式から鎖交磁束数を消去して両コイルの電圧
と電流だけの関係式として表現することもできます。
補足)
式(19.4)のインダクタンス行列素の符号がプラス・マイナス混在していることに好いて補足します。電流
is(t) および
ifd(t) の方向を流入と流出のどちらに約束するかで符号はプラスにもマイナスにもなります。
「fd 端子に
ifd(t) が流入し、s 端子から
is(t) が流出する」と約束したので上式のようになりました。両電
流ともに流入方向に約束して
is(t) を
-is(t) で置き換えれば行列の中の符号は全てプラスになります。
19.2 まとめ
NO.17 から三回にわたって
単相発電機(ダンパー巻き線無し)モデルの電磁機械としての物理
的イメージにつき解説しつつその理論式について解説してきました。結果は行列式(19.3a,b)と
して非常に整った式として整頓できました。
ただ、前回のNo.18 で詳しく述べたように式(19.3)中の自己インダクタンス
lss(t),
lffd(t),
相互インダクタンス
lsfd(t)=lsfd(t) 等が 180 度周期の時間関数
t=θ/ωとして脈動的に変化しま
すから
lsfd(t)・ls(t) 等の微分は次式のようにさらにややこしい数式として扱わねばなりません。

漏れインダクタンス
lsleak(t) 等についても同じように時間的に周期変化しますから漏れインダ
クタンスによる電圧降下の項

も簡単に
lsleak(t)・dis(t)/dt とはなりません。
発電機のインダクタンス定数が固定値として示せないということは"発電機のお品書き"である
銘版への定数記載ができないということでもあります。 また,発電機に負荷回路を繋いだ回路
計算に供するモデル式としてもこのままでは先に進むことができません。
この課題をどのように克服するかについては次回以降に三相発電機の理論の中で詳しく解説
することとしてここでは保留しておきます。 予告編としてその課題克服するためのkey-words
は①
dq0法と②対称座標法(012変換法)③
pu法の三つということになるでしょう。
もう一つ指摘しなければならないことがあります。三相発電機ではStator 側のcoil が
a-coil,
b-
coil,
c-coil の三つになります。さらにRotor 側のcoil が
fd -coil の他にダンパー
kd-coil とダン
パー
kq-coil を追加して「ダンパー巻線ありモデル」(図19.1a)として検討する必要があるので
す。合計で六つのcoil のモデルということになります。 次回に詳しく説明しますがダンパー巻
線とはかご型誘導機(Cage-type induction motor)のRotor 側巻線に見られるように鉄またはア
ルミのbar を複数平行に並べてRotor 鉄心表面近くに埋め込み、そのcoil-end 部でリングによっ
て短絡したような構造です。実際に水力機には必ずRotor の磁石NS 極の部分(Pole-piece 表面)
にダンパー巻線が必ず埋め込まれています。 ダンパー巻線には(誘導機の場合と同様に)普段は
電流はほとんど流れませんが回路急変時(外部短絡とか回転速度急変時)に過大な電流が流れま
す。 火力機(2-poles)原子力機(4-poles)のような高速回転のCylindrical Rotor には ダン
パー巻線がありませんが、回路急変時にはRotor の鉄心表面近くやcoil-slot 中の蓋の役目をす
る楔(くさびWedge)部分に過大な電流が流れて急速に過熱します。 この現象を見過ごすわけに
はいきません。 したがって火力機・原子力機であっても実用的な回路理論モデルとしては“ダ
ンパー巻線ありモデル”として扱う必要があるのです。次回からいよいよ三相発電機の理論に進
みます。そのまた先には発電機の集合体としての系統理論が待っています。
(2021年7月10日 長谷良秀 記)