三相発電機(同期機)の理論 その3
前々回No.20 では三相発電機の
abc 相モデルの基本方程式(20.1a)~(20.1k)について
解説し、前回No.20では発電機から一旦離れて
dq0 変換について解説しました。今回 No.22
ではいよいよ発電機のabc相モデルの方程式にdq0変換を施して“発電機の
dq0 領域方程
式”を求める解説に入ります。
パークの式の登場です。
22.1 三相発電機の abc 相モデルの方程式(再掲)
発電機の
abc 相モデルの基本式(20.1a)~(20.1z)を再掲します。

以上式(22.1a)~(22.1k)が回路モデル図22.1a1 を全て表現しています。全ての変数が実数
瞬時値表現であることに留意してください。
22.2 abc 相モデル式の dq0 変換

この式はロータ側の三つのコイル(
fd , kd , kq コイル)のそれぞれについて、その鎖交磁
束の変化率が誘起電圧に比例する(MKS 有理単位系では一致する)ことを示す式ですが、各
コイルはもとより
dq 軸の位置に固定されていて、ステータとロータの相対的回転角度
Θ = ωtがどの位置にあっても影響をうけることはありません。 そしてもとから
dq0 領域電気
量だけの式であるので
dq0 変換は不要です。

式(22.5)の右辺第1 項目と(22.4)の右辺第2 項目のインダクタンス行列はステータコイ
ルとロータコイル間の相互インダクタンス行列ですが、両者は六つの行列素がゼロとなり、
なおかつ3 2 の係数を別にすれば互いに逆行列の関係にあります。
すなわち

さて、
abc 領域の全ての関係式を
dq0 領域に変換して発電機のdq0関係式(22.2) (22.3) (22.4)
(22.5)を得ることができました。 ところで、発電機の
dq0 関係式は依然として四つの式があ
って⼀⾒複雑ですが、ネットワークにつながる発電機の端⼦電圧
edq0(t) と端⼦電流
idq0(t) に関
係する式は(22.2)だけです。他の三つの式(22.3)(22.4)(22.5)は発電機のステータ側とロー
タ側の各コイルの電磁気的なつながりだけを⽰す式です。 したがって、たとえば「系統の短
絡故障計算」ではロータ側界磁回路の状況を知る必要がないのでパーク式(22.2)だけを使えば
よく、他の三つの式(22.3)(22.4)(22.5)を使う必要はありません。 現実に発電機側で直
接制御できる変数は励磁電圧
Efd だけであり、この
Efd が⼀定値の状況での系統側ネットワーク
回路の現象解析にはパーク式(22.2)だけが必要になります。
22.3 abc 相が三相平衡の定常状態の場合の dq0 領域電気量
さて最重要のパーク式(22.2)についてもう少し補⾜します。
abc 相電圧が式(22.6a)のように三相平衡である場合を考えます。この時012 領域(対称分)
電圧は式(22.6b)で正相電圧のみとなり、
dq0 領域電圧は式(22.6c)のように直流分となるのでし
た。即ち下式の如くです。(前回21.3 節参照)

この状態の電圧ベクトルのスナップショットは図22-2 のようになります。 図は
dq 軸に固
定されたベクトル
EΕjα = ed + jeq が⾓速度
ω で反時計⽅向に回転し、
t = 0 では(0度の点を
基準起点として)⾓度
α の位置にあり、また
t = ωt の瞬間では
t = ωt + α の位置にあって電圧
ベクトルの値は

となることを⽰しており、時間
t の進
みと共に⾓速度
ω で回転しています。なお「このベクトルは0 度の位置を基準として回転して
いる」が、
dq 軸も⼀緒に回転しているので「
dq 軸を基準とすれば固定している」ということ
になります。 実際の電圧
ea(t) はこの回転ベクトルの実数部(あるいは0 度⽅向の固定軸へ
投射した⽅向成分)
ea(t) = Ecos(ωt + α) ということになります。

次に、電圧が三相平衡であれば鎖交磁束も三相平衡ですからその
dq 軸に変換された鎖交磁束
Φd ,
Φq についても同様に直流量です。故にパーク式(22.2)の右辺第2項(鎖交磁束の変化量
の項)は
dΦd/dt = 0, dΦq/dt = 0 となるはずです。換⾔すれば,「右辺第 2 項がゼロ値でな
い場合」とは「三相不平衡の場合」ということになります。 それは「三相不平衡定常状態」
「直流分or ⾼調波を含む場合」または「過渡現象状態」のいずれかということになります。
そこでパーク式の右辺第2 項は通常は
“過渡項”と称します。そして右辺第1 項と第3 項⽬が
定
常項ということになります。
さてそこで
発電機端子の電圧・電流が三相平衡な定常状態の場合にはパーク式(22.2)
は過渡項が消滅して定常項のみとなり次式のように簡単になります。
ed, eq は直流値なので
(t) も省きます。

正相電圧
e1(t) は
(ed + jeq) が⾓速度
ω = 2πf で回転している回転ベクトルであり、また主
磁束ベクトル
(Φd + jΦq) は電圧回転ベクトル
(ed + jeq)・ejωt
より 90 度遅れの位相⾓を保って⼀緒に⾓速度 で回転していることが理解できます。
今回の勉強はこれまでとしましょう。 発電機の解説はまだまだ続きます。
(2021年10月2日 長谷良秀 記)