三相発電機(同期機)の理論 その4
23.1 発電機の dq0 領域関係式の導入(再掲)
シリーズNo.20 では三相発電機の
abc 相モデルの基本方程式について解説し、No.21 では発電
機から一旦離れて
dq0 変換について解説しました。 そして前回 No.22 では発電機の
abc 相モ
デルの方程式に
dq0 変換を施して“発電機の
dq0 領域方程式”を導入しました。 四つの式
(22.2) ~(22.5)の式番をあらたにして再掲いたします。

この式はもともとロータの N 極方向(
d 軸方向と定義)とそれより90 度進み方向(
q 軸方向と定
義)のロータの電磁気構成を示す式であってステータ
abc 相電気量を含まない式ですから変換の
必要がないのでした。
dq0 変換によって発電機の式中のリアクタンスが全て固定値(
ωt によって周期変化しない)と
なりました。 また前回No.22 では
abc 相領域電気量が特別の場合として“三相平衡の場合”
には
dq0 領域の電気量は“直流量(
ωt に依存しない)”となることなどを学びました。
23.2 d,q 軸コイルの自己インダクタンス Ld , Lq および漏れインダクタンス Ll の吟味
磁束と電流には
Φ = L・i の比例関係があり、その比例係数(あるいは電流 1A が作る磁束数)
をインダクタンス
L = Φ/i と定義したのでした。このことを念頭にしつつ式(23.1c)の 1 行目の
式についてあらためて吟味します。

右辺第 2 項
Lafd ・ ifd(t) は
ifdが作る磁束を
d 軸コイルが切る鎖交磁束数であり
Lafd
は両コイルの相互インダクタンスです。第3 項目も同様に説明できます。 第1 項
Ld ・ id(t) は
d 軸コイルの
id(t) が作る磁束と
id(t) が鎖交する磁束の総数であり、
Ld は
d 軸コイルの自己インダクタンス
です。 そして
Φd(t) は
d ,
fd ,
kd 三つのコイル電流
id(t) ,
ifd(t) ,
ikd(t) が作る磁束と
d 軸コイ
ルの電流
id(t) が鎖交する総磁束数です。 右辺第1 項
Ld ・
id(t) についてもう少し吟味します。
磁束
Ld ・
id(t) の一部はd 軸コイルにのみ鎖交して他のコイルと鎖交しない漏れ磁束 (
Ld ・
id(t)t
とします。) となり,それを差し引いた残りの磁束 (
Lad ・
id(t) とします) が他のコイルとも鎖交
してd 軸コイルの端子電圧に寄与し、コイル間のパワーの授受にも寄与する磁束となります。
式で表現すれば
d 軸コイルの電流
id(t) 作る磁束と
id(t) 自身が鎖交する鎖交磁束数が
Ld ・
id(t) であり (
Ld は
d
軸コイルの自己インダクタンス)、また
Ld ・
did(t)/dt が
d 軸コイルの
id(t) による誘起電圧成分
となります。
Ld ・
id(t) のうちのごく一部の
Ll ・
id(t) は他のコイル(
fd コイル,
kd コイル)には
鎖交しない漏れ磁束となり、
Ll は
d 軸コイルの漏れインダクタンス、そして
Ll ・
did(t)/dt は
d
軸コイルの漏れインダクタンスによる電圧降下成分となります。 ( ) di t によるd 軸コイルの誘
起電圧
Ld ・
id(t)/dt から漏れインダクタンスによる電圧降下成分
Ll ・
did(t)/dt を差し引いた電圧
Lad ・
did(t)/dt が
id(t) によるd 軸コイルの端子電圧成分となって外部負荷への電力供給に寄与
することになります。
q 軸コイルの式、すなわち式(23.1c)の2 行目の式についても事情は同じです。

従って式(23.1c)中の
d 軸コイルおよび
q 軸コイルのインダクタンス
Ld ,
Lq は次式のように置
き換えることができます。

ところで上式において
d 軸コイル(ロータ NS 極方向に位置)と
q 軸コイル(進み 90 度方向に位
置)では
d 軸と
q 軸方向の磁気抵抗に差があるので一般には当然
Ld ≠ Lq および
Lad ≠ Laq です。
ところが
d 軸コイルと
q 軸コイルの漏れインダクタンスについてはを同一値
Ll としています。
このことについて理由を説明する必要がありますね。それにはステータコイルの漏れ磁束がど
の部位でどのように発生するかを構造的に吟味する必要があります。
漏れ磁束に関する考察
図23.1 は水力機・火力機の漏れ磁束の発生する部位を解説しています。 図(a)(b)(c)は水力
発電機の場合の内央部において発生する漏れ磁束を、また図(d)(e)は水火共通ですがステータ
コイル内央部とコイル端部における漏れ磁束を示しています。内央部ではロータN極から発し
た磁束のほぼ全数が「ロータN極⇒空隙⇒ステータ鉄心⇒空隙⇒ロータS極の磁束経路」をた
どる主磁束となるわけで、図(a)(b)(c)の部位に生ずる漏れ磁束(air-gap leakage flux Φ
airl )およ
び図(d)の部位に生ずる漏れ磁束(slot-leakage flux Φ
slot1/sub )はごく僅かであると理解できます。
他方の図(e)のコイル端部には鉄心がないですからこの部位にて生ずる漏れ磁束(coil endleakage
flux Φendl )は内央部に生ずる漏れ磁束より圧倒的に大きくなります。ステータコイル
漏れ磁束の大半は端部で発生する Φendl であると理解できます。

さて、そもそもステータコイルは内央部もコイル端部も完全に0~360 度の方向に一様構造
(ロータ回転軸芯に点対称)に設計されています。 a,b,c 相コイルは内央部もコイル端部も
完全一様構造ですからその漏れ磁束は360 度の全方位で一様に生ずるはずであり、d 軸方向と
q 軸方向で差が生ずることはありません。 したがって三相コイルを d q 変換した仮想のd 軸
コイル(NS 極方向に位置)と q 軸コイル(NS 極より90 度進み方向に位置)の漏れインダクタンス
に差が生ずるはずもなく、両者は当然同一値 Ll と見なしても良いことになるのです。
23.2 発電機関係式のPU 化のベース量の決定
さて発電機の dq0 領域における四つの式が求められましたが、このままではどうにもなりま
せん。この式をなんとかpu 化し、さらには等価回路として表現したいです。 それぞれ物理概
念の異なる d , q ,0, fd , kd , kq 各コイルの電気量に関する関係式ですからベース量を順序だて
て適切に決めてpu 化する必要があります。

私たちが三相回路を扱う場合、通常は三相容量[MVA],線間電圧実効値[ kV ],相電流実
効値[ A ]で呼称折、定格値についても同様です。 しかし三相回路を回路理論として扱う場
合には一般に三相容量はその1 3倍の単相容量に置き換え、線間電圧は1/ √3倍した相電圧に置
き換えて相電圧&相電流を基本として考察し、さらに電圧&電流は波高値とその1/ √2倍の実効
値を区別して扱う必要があります。 このことに留意しながらpu 化のベース量を決定していき
ます。
なお,ステータ d , q ,0 軸コイルのベース量には添え字 s を付して sebase , sibase , sΨbase, sZbase , sLbase
などと表現し、同様にロータ fd -コイルベース量には添え字 f を、kd , kq コイルのベース量に
は添え字 k を付すことにします。
なお、各電気量のpu 値には変数の上にupperbar を付して表現することとします。たとえば
電圧 ed をベース値 sebase で pu 化した pu 値は下記のようになります。



23.3 発電機関係式のPU 化
ベース量が決定されたので次は各式をpu 化を行います。Pu 化した変数はupper-bar を付けた変
数として表現することとします。






なお、ロータコイルの電気量を問題としない場合にはロータコイルのベース量を定めたりロータ
コイル側電気量のpu 値等を知る必要は全くありません。ただ等価回路(次回説明予定)を得る厳密
な理論的道筋として理解しておく必要があります。
今回はここまでとします。
(2021年11月8日 長谷良秀 記)