電力技術理論徒然草 No.24 (長谷良秀) 
     
 
三相発電機(同期機)の理論 その5

24.1 発電機 dq0 等価回路の導入
さて、前回No.23 において発電機に関してpu 化した4 つのdq0 領域⽅程式(23.5)(23.6)(23.7)(23.8) を導くことができました。式番を変更して再録します。


pu 化された式は基本的にpu 化前と同形であり、ただしpu 化の課程でステータとロータの相互 インダクタンス に関するベース量をNo.23 にて記した式(1a)(1b)のように選ぶこ とによって両者が に統⼀されて表現されているのでした。発電機の dq0 変換式導⼊過程の 解説をようやく終わることができました。 締めくくりはこの4 つの式を満たす等価回路図を 描く仕事にかかります。
  4つの式をシンプルに表現するために時間関数であることを示す ,を省略して表記する こととして、また電圧式(24.1a)(24.1b)に含まれる微分項の微分記号 をラプラス記号 s に置き換えることとします。 そのうえで式(24.1a)に(24.1c)の磁束 を代⼊消 去すると次式を得ます。


同様に式(24.1b) を(24.1d)を代⼊消去したうえでちょっと変形すると次式を得 ます。


さて皆さん、4 っの式から磁束を消去して私たちが普段⽤いる電圧と電流の関係 式(24.2a)(24.2b)を導きました。この両式をぴったり必要充分に満たす等価回路を 描くことができてそれが図24.1 です。 両式と図24.1 が細部に⾄るまで完全に⼀致 していることをぜひ確かめてください。この点が納得できれば発電機の dq0 領域の 特性を評価するのにこれからは4 つの式に代わってこの等価回路で吟味することが 可能となるわけです。なおこの等価回路で磁束 を消去して表現されていますが、等価 回路図の各部位各分路において の関係が成り⽴っているので磁束の関係をも表現して いることに留意してください。 たとえばd 軸コイルの漏れインダクタンス に電流 が流れ るのでd 軸コイルの漏れ磁束は であると理解できるわけです。 弧の等価回路に明 記してなくても必要に応じて磁束の姿も知ることができるわけです。


24.2 発電機 dq0 等価回路の見方解説
さてこの等価回路がどのような意味を持つかを吟味し、発電機の物理的な構造や応動とどのよ うに結びつくのかを考える段階にが近づきました。
図24.1 は d 軸-, q 軸-, 0 軸の等価回路からなっています。 初めに式(24.2b)に登場する と定義するなどして図中で新たに を次のように定義して 表現することとしています。


これは単に表記をシンプルにするための置き換えです。
まずは d 軸等価回路について解説していきます。発電機d 軸コイルには 3 つの分路があり、そ の各分路電流 の合計値が電流 として漏れインダクタンス を経て端⼦から外部回 路に流出し(外部回路から が流れ込み)ます。 d 軸コイルの漏れ磁束は です。 電流 が流れる第1 分路はインダクタンス のみからなり抵抗が含まれていないので第1 分 路の両端の電圧は です。この はステータd 軸コイルとロータコイルの全てに 鎖交する主磁束に関するインダクタンスであると説明しました(No.23 式(23.2a))。したがっ て図には とは記⼊していませんがこの等価回路は鉄⼼主磁束が であること を説明しています。同様に d 軸コイルの漏れ磁束は です。 次は第 2 分路です。こ れは界磁回路を⽰しており、界磁回路につながれる外部回路としての直流界磁電源 が挿⼊ されています。 第3 分路はダンパー d 軸分路です。 ⽔⼒発電機にはダンパー回路がありま すが、⽕⼒機においてはロータ表⾯のコイル溝(スロット)近傍の鉄⼼や楔の部位などが電気 的にはダンパー巻線のように振舞う(鉄⼼部に電流が流れて過熱する)ということです。 た だし第2 分路と第3 分路の抵抗値を⽐較すれば断然 ということで が⼤きいので後述 するように普通の三相平衡定常状態ではそれほど⼤きい電流は流れません。
次に、図中においてで としていることについて説明します。 ロータ N 極から 発した磁束のほぼ全量がロータ表⾯に位置するダンパコイルともd 軸コイルとも鎖交して後ス テータ鉄⼼経由でロータS 極に戻りますから両者の鎖交磁束数は同じで です。 従 って次式が成り⽴ちます。


図に⽰した の説明は以上です。これで図や式がかなり簡単になります。
次に q 軸等価回路についてみていきましょう。 私たちのモデルでは磁束は d 軸⽅向のみに出 ていますから、それより90 度進んでいる q 軸⽅向には界磁電源がありません。 従って q 軸等 価回路ではd 軸回路の第2 分路がなくて、いわば第1 分路と第3 分路および漏れ磁束 だけの 回路となっているのです。そのほかの⾒⽅は d 軸分路の場合と同じです。
さてここで、pu 法に関して今までに説明をする機会のなかったもう⼀つ素晴らしい 特質について説明します。 ⼀般論として次の式を⾒てください。


  もとより実⽤単位のリアクタンスとインダクタンスには x = ωL = 2πf ・ L の関係が ありますが、pu 値としては で両者は同⼀値になってしまうということです。 従って図24.1 のインダクタンス値 を全て に読み替えて理解することができるのです。pu 法 のもう⼀つの素晴らしい恩恵です。
d 軸回路と q 軸回路それに0軸回路は電気回路としては⾒事に独⽴した3 つの等価回路として 描くことができました。電流・電圧に注⽬すれば確かに独⽴しているのですが d 軸回路の端⼦ 電圧はpu 値としては の合計値たる であり、q 軸回路の端⼦電圧は です。 d 軸回路と q 軸回路は磁束を介して繋がっていることを忘れないでくださ い。

24.3 発電機三相平衡定常運転状態の場合
  発電機の dq0 等価回路の見方が理解できたところで、次に我が発電機 G1 が外部回路(一般に 送電線を介して他の発電機と負荷)が繋がっていて、三相平衡定常状態の定格電圧値 で運転している場合を考えます。 我が発電機が dq0 領域に変換された状態で外部につながる 状態を考えるのですから外部回路についても全てが dq0 領域に変換された状態でつながる状態 を考える必要があります。 図24.2 はこの状態を表しています。

ここでNo.21 で説明した式(21.10a,b)を思い出していただく必要があります。 我が発電機 が三相平衡で運転中ですからpu 値表現で再録すれば次のとおりです。


電圧・電流が abc 領域で(24.6a)であれば dq0 領域では(24.6b)のように直流値になるのでし た。 図 24.2 で我が発電機の d 軸回路端⼦電圧・電流はそれぞれ直流⼀定値 で運転中ということになります。 我が発電機のみならず外部回路の電気量もまた三相平衡状 態ですから図 24.2 の dq0 領域回路図では我が発電機だけでなく外部回路の全ての地点の電 圧・電流値も直流値の状態にあります。


24.4 外部回路で3相短絡が生ずる場合
さて皆さん、定常状態で運転中であった図24.2 の回路において、外部回路のスイッ チ Sw3の地点で t=0 にて三相短絡が⽣じたとします。 dq 軸回路で過渡現象が始 まりますが我が発電機電圧・電流の t=0 における初期値はもちろん式(24.6b)です。 そして t=0 以降に⽣ずる過渡現象の過渡項がどうなるかを考えるときには我が発電機の直流 電源 Efd がない受動回路として扱い、事故点 Sw3 のスイッチを閉じる直前 t=0- の電圧値を加 えて計算すればよいわけです(重ねの理orTevenin 定理)。




さて式(24.8a,b,c)は時間t の微分⽅程式をs に置き換えたラプラス変換式そのものであ り、図24.2 で発電機端⼦から右⽅向の内部端⼦を⾒るラプラスインピーダンス回路 そのものでもあります。過渡現象解析の定番としてよく登場するs 関数の形をしてい ますね。式(24.8a,b)の は発電機の d 軸, q 軸回路のオペレーショナルインピー ダンスと称されるもので、これらの式は時間 t=0 で⽣じた過渡現象の t≥0 以降の全ての時間 帯で成⽴します。過渡現象が⽣ずれば、発電機の d 軸, q 軸インピーダンス はs 時計 の推移で変化することを⽰しており、当然t 時計の推移によっても変化をすることになります。
  さて、今回はここまでとしましょう。今まで勉強してきたことを次回以降はた っぷり使って、発電機回路理論をより実践的な技術という視点で学んでいきます。 皆さん今回もお付き合いありがとうございました。

(2021年12月8日 長谷良秀 記)
 
     
   
     
 
 
 
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