三相発電機(同期機)の理論 その6
25.1 発電機 dq0 等価回路のオペレーショナルインピーダンス Zd(S),Zq(S),Z0(S)
前回 No.24 で発電機の
dq0 領域における関係式とその等価回路図を導入しました。図 25.1a
図25.1b として再録します。 また我が発電機が系統につながって運転中に系統側で短絡事故
などの外乱によって過渡現象が生じた時の端子電圧・電流の比

および

をラプラス
を変換で表現した式を“発電機のオペレーショナルインピーダンス”といい、式(24.8a,b,c)
で示しました。この式を(25.1a,b,c)として再録します。 なお、今までの解説では方程式
やその変数・係数がPU 値の場合にはそれを強調するためにupper-bar を付してきました。 今
後は特に断らない限り全ての方程式はPU 値表現ですからPU 値であることを示すupper-bar は
省いて記すことにします。
発電機のオペレーショナルインピーダンス

図25.1a の
d 軸等価回路に注目して解説を続けます。
Ll は
d 軸コイルの漏れ磁束です。第1 分
路は鉄心主磁束に関するインダクタンス
Lad (=Φad/iad :定義) のみから成ります。インダク
タンス
Lad に電流
iad が流れるこの分路は全てのコイルと鎖交してパワーの授受を掌る鎖交磁束
を意味する分炉であり、鉄心主磁束が
Φad=Lad・iad であることを示しています。電流・電圧
の関係だけでなく磁束の関係をも示しているのです。 第2 分路は界磁コイルの分路であり,
Efd は直流界磁電源(パワエレ)から供給される励磁電圧、
ifd は励磁電流です。 第3 分路はダ
ンパー
d 軸コイルを表します。 火力機などダンパー巻線がない円筒型構造の発電機(非突極
機)では、第3 分路はロータの表面部位の積層鉄心やコイル溝の蓋の役割を果たす楔(Wedge)な
どを意味することになりますからこの第3 分路に電流が長時間流れることは問題となりますが
この点は後で説明することとします。
さてこの等価回路の抵抗分に着目します。第1 分路の抵抗はゼロ、第2 分路の抵抗は
rfd 、第
3 分路の抵抗は
rkd で、当然
0&8810;rfd&8810;rkd の関係にあることに留意して次の説明を続けます。
25.2 発電機 dq0 軸の定常/初期過渡/過渡リアクタンス
25.2.1 定常運転状態の xd , xq
まずは発電機が三相平衡で定常状態で運転中の場合の
d 軸回路の状態を考えます。 図
25.1b の(b)でsw1 が閉、sw3 が開の状態です。 そして
abc 相電気量が三相平衡としています
から
dq0 領域で示す図 25.1b(b)では発電機端子の e
d , i
d のみならず全系の電気量が全て直流で
あるということになります。ところで一般論として直流電流に対しては
L・di/dt=0 なので
L
をまたぐ電圧はゼロ、したがって
L は短絡状態と同じということでした。 ゆえに図で発電機
端子に流入する電流
-id (
id は流出方向に符号を定義しているので流入電流は
-id です)は第 1、
第2、第3 分路にその抵抗値0,
rfd ,
rkd の逆比の割合で分流することになりますが、各分路の
抵抗値の大小関係は
0&8810;rfd&8810;rkd ですから系統から流れ込む直流電流成分
-id は全て第 1 分路
に流れ込むことになり、第2、第3 分路には流れません。三相平衡定常状態では第2、第3 分路
には電流が流れないのであるから、等価回路で発電機端子から内部方向のインダクタンス,リア
クタンスに注目すれば、第2、第3 分路が存在しないのと同等ということになり、第1 分路のみ
が機能します。したがって次式(25.2a)のようになります。また、界磁回路外部電源から流し込
まれる電流
ifd も第2 分路から第1 分路にのみ流れ込みます。 なお、
q 軸回路についても事
情は同じですから次式(25.2b)のようになります。

PU 表現では
L = x であることは既に説明しましたからリアクタンスとインダクタンスは同形です。
25.2.2 初期過渡時間帯の x"d , x"q
発電機が三相平衡状態で運転中に外部系統に三相短絡が発生したとします。初期の過渡電流成
分はもちろん急峻に変化する高調波成分です。過渡現象の初期では流入電流が
-id が高調波電流
成分からなる急峻な過渡電流成分が生じます。ところで一般論として急峻な電流ではインダク
タンス
L をまたぐ電圧
L・di/dt ⇒ が抵抗をまたぐ電圧
R・i よりも相対的に大菊なるので、発
電機端子から流入する急峻な過渡電流成分は第1、第2、第3 分路にそれぞれ概ねインダクタン
スの逆比で流れ込むことになります。 定常状態では分流比が抵抗の逆比となるために第1 分
路のみに流れ込むのでしたが初期の過渡現象では第2、第3 回路に電流が流れ込むことになりま
す。 そしてその初期過渡時間帯の発電機のリアクタンス&インダクタンスを
x"d , L"d と表現す
ることにして次式となります。
d 軸回路の初期過渡リアクタンス&インダクタンス x"d , L"d

この初期時間帯では第3 分路、すなわちダンパーコイルにも電流が流れることを意味しており、
火力機ではロータ鉄心表面や楔に電流が渦電流として流れて急激な温度上昇を生ずることにな
りこの状態が長く続けは発電機はどんどん過熱して事故となってしまいます。 ただし幸いに
もこの第3 分路のkd r が相対的に大きいことにで助けられて第3 分路電流はせいぜい3サイクル
(50-60ms)程度で減衰します。
なお、
L と
R の直列回路の過渡現象の減衰時定数は
T=L/R ですから、上述の過渡成分の減
衰時定数は図25.1b(b)に当てはめれば次式となることが理解できますね。
q 軸等価回路は
d 軸等価回路における界磁回路に相当する第2 分路がない状態と同形の回路で
すから次のようになります。
q 軸回路の初期過渡リアクタンス&インダクタンス,短絡時定数
25.2.3 過渡時間帯の x'd , x'q
三相短絡が生じて50-60ms 程度経過して初期過渡電流成分がほぼ減衰した後の時間帯におけ
るリアクタンス
x'd ,インダクタンス
L'd 時定数
T'd について考えます。
0&8810;rfd&8810;rkd の関係にあ
るので第3 分路に流れ込む急峻な電流成分は抵抗
rkd で熱として消費されて早く減衰し、3サイ
クルほど後には第3 分路には殆ど電流は流れなくなります。そこで3 サイクル以前の時間帯を
“初期過渡時間帯”、3 サイクル以降を“過渡時間帯”として区別します。過渡時間帯では第3
分路の電流は既に減衰してゼロになっているのでこの時間帯のリアクタンス・インダクタンス
は次のようになります。
d 軸回路の過渡リアクタンス&インダクタンス、短絡時定数
25.2.4 定常時間帯の xd , xq
過渡現象が発生後1 秒程度経過すると(三相短絡電流の保護リレー遮断が行われないと仮定し
て)過渡現象が殆ど収束して定常状態に達します。
この時点では外部から発電機端子に流れ込む三相短絡電流
id は直流値になりますからこの電流
は全て抵抗がない第1 分路に流れて、抵抗のある第2,第3 分路には流れません。したがってこ
の状態での発電機リアクタンス
xd ,
xq およびインダクタンス
Ld ,
Lq は式(25.2)(25.3)と同じ
で次式となります。

以上で三相短絡電流が定常状態で流れる状況での説明は完了です。
25.3 発電機の代表的な各種リアクタンス値および時定数
ところで、以上の25.2 節の解説では三相短絡が発生したとしてきました。 事故前の運転状
態が不平衡であったり、また不平衡短絡or 地絡事故が発生する場合はどうでしょう。 その場
合は発電機端子電流
id には逆相電流成分
i2 が含まれて端子に流れ込みます。 逆相電流は
dq0
領域では
2ω(= 2 x 2πf))の交流成分になります(次回以降に詳述します)。したがって、不平衡
負荷運転や不平衡事故状態では過渡時間帯のみならず定常時間帯であっても逆相電流が流れて
いる状態であるから発電機等価回路の第1、第2、第3 分路にインダクタンスの逆比で分流する
ことになります。 第3 分路に電流が流れるということは火力機など円筒型発電機にとっては
ロータ表面の鉄心&楔に電流が流れ続けることを意味するので事件です。 また一般にn 調波
の高周波電流成分が存在する場合にはその成分は
012領域では(
n-1)調波の交流となります
から第 3 分路に電流が流れ続けることになります。この問題については次回以降で
dq0領域電
流と対照座標法の
012 領域の関係について吟味した上で詳しく解説します。
25.4 発電機の代表的な各種リアクタンス値および時定数
発電機の
dq0 領域でのリアクタンスと時定数について解説してきましたのでここ代表的な各
種リアクタンス値および時定数として表25.1 を示しておきます。図中のリアクタンス値が“不
飽和値”である注記してありますが、これについては次回以降で改めて解説します。
ところで、この表 25.1 に示される発電機の
dq0 領域リアクタンス値は仕様書や銘板に記され
る数値であり,いわば“発電機の重要なお品書き”であると云えます。 発電機の回路定数は
dq0 領域の数値として初めて規定し、基本仕様のとして表現することが可能となるのです。
発電機は複雑な三相回路構成であるがゆえにその回路定数を
abc 領域で表現することは不可能
であり、
dq0 領域に変換した姿で初めて正確に記述できるということになるのです。

さてここで立ち止まって考えると、送電線や変圧器については対称座標法
012 領域変で表
現する方法を学んできましたが、発電機では
dq0 領域変換で表現することができました。
実際の電力システム解析では両者を結合して扱う必要がありますから、発電機の
dq0 領域関係
式が対称座標法の正・逆・零相回路とどのような関係にあるかを明らかにする必要があります。
次回以降で解説していくことになります。 今回はここまでとしましょう。
(2022年1月8日 長谷良秀 記)