三相発電機(同期機)の理論 その8
27.1 発電機の正相等価回路
前回 No.26では発電機の
dq0 等価回路図(図27.1として再録)の根拠となる理論の解説に続き、
発電機に過渡現象が生じた時の
dq 軸時定数
x"d , x'd , xd , x"q , x1q = xq
短絡時定数
T"d , T'd , T"q 等
を解説しました。 ところで私たちは系統の短絡故障計算とか動態安定度計算などほゞ全ての
50/60Hz 解析ではなんの疑問を抱くことなく発電機を図27.2 のように対称座標法の正相・逆
相・零相回路として表現して計算をしますが図27.1 と図27.2 の関係はどうなるのでしょう?
正相リアクタンス
x1 として無造作にd 軸回路定数
x"d , x'd , xd を使いますが何故それでよいので
しょうか? 逆相回路はなぜ
x2 = (x"d + x"q)/2 なのでしょうか? このような単純な Quiz に答
えることができますか?
abc 相が三相平衡の式(27.1a)にあるときの
dq0 領域と 012 領域の関
係は式(27.1b)になり、さらにこれらの関係から式(27.1c,d)の関係が得られることをも前回
No.26.6 節で学びました。これらの式だけでは発電機の正相等価回路を図27.2 のように表現す
る説明根拠にはなっていません。対称座標法計算が得意であってもこの Quiz に答えられない
とすれば”ルーチン知ってその根拠をしらず”ということにもなりますのでこの際しっかり解説
したいと思います。
まずは
正相回路の解説から始めます。発電機が三相平衡状態で運転中ですからその電圧・電流は
次式(27.1a)のようになります。

三相平衡状態では正相電気量とdq 電気量には式(27.1d)の関係があるということです。
27.1.1 発電機が三相平衡定常状態で通常運転状態
三相平衡状態で通常運転の発電機の定常状態について前回の26.6 節で詳しく解説しました。式
(26.10a,b,c)(26.11a,b,c,d)を新たな式番として再録します。
三相平衡定常状態(外部事故直前の状態)
27.1.2 三相短絡直後3cycle(60ms) ≥t≥0 の時間帯(初期過渡時間帯)
さて、時間
t = 0 にて外部回路に何らかの擾乱(短絡事故とは限らない)が生ずるとして、上
式は時間帯
t ≤ 0 で成り立っていたわけですから
t = 0 にて生ずる外部擾乱に起因する過渡現象
の初期条件となります。外部擾乱が発生直後の 3cycle(60ms)≥t ≥0 では(
ΔΦd/Δid が近似
的に一定値
x"d になり、また同様に
ΔΦq/Δiq が近似的に一定値
x"q になると規約的に見なして次
式の関係を保持しつつ発電機および系統側の全ての電気量が過渡現象的に変化すると見なします。

この時間帯では
x"d = -ΔΦd/Δid は変化しないと規約していますから
ΔΦd = -x"d・Δid の関係に
あります。 故に
t = 0 直後の時間 t においては
Δid = id(t) - id(0) 等の関係に留意して鎖交磁
束は次式のようになります。

両式は
Φd + jΦd のように合成した複素電気量として次のようにも表現できます。

さらに次のように書き換えがでます。

式(2743)(27.5a,b,c)はどのような擾乱であっても3cycle(60ms)≥t≥0 の時間帯で成立します。
さてここで私たちはまず正相回路をどのように表現するかを知りたいので発電機端子付近での
擾乱として三相短絡の場合について吟味しましょう。
t = 0 で三相短絡が生ずると
t ge; 0 で依然として三相平衡状態ですから式(27.2)の形が保全されています。

式(27.7a)は両辺に回転オペレータ
ejωt を掛けて次式のようにも表現できます。

これは既に学んだ三相平衡定常状態における式(27.3d)と同形で,ただリアクタンス値が
xd から
x"d に代わっただけです。 そして三相短絡が発生した直後の時間帯3cycle(60ms)≥t≥0 におい
て図27.2 のような等価回路として扱えることを意味しています。
27.1.3 1秒≥t≥3cycle(60ms)の時間帯(過渡時間帯)
この時間帯では 1 秒≥t≥3cycle(60ms) では式(27.4)に代わって次式(27.10)のように
ΔΦd/Δid が近似的に一定値
x'd になり、また同様に
ΔΦq/Δiq が近似的に一定値
x'q になりると見なしています。

この時間帯では
ΔΦd = -x'd ・ Δid ,
ΔΦq = -x'q ・ Δiq の関係保持しつつ過渡現象が続きます。
従って式(27.8a,b)(27.9a,b,c)に代わって次式が成り立ちます。

ただし励磁電圧
Efd は変化させていないとして式(27.8b)のままです。
式(27.7a)は両辺に回転オペレータ
ejωt を掛けて次式のようにお表現できます。

式(27.12c)は時間帯 1 秒≥t≥3cycle(60ms)において図 27.2 に示す正相等価回路の根拠となります。
27.1.4 t ≥ 1 秒の時間帯(三相短絡定常状態)
三相短絡が発生して式(27.6a)のじょうたいにあるとはいえこの時間帯では三相平衡の定常状
態ですから式(27.2a,b,c)(27.3a,b,c,d)の関係がそのまま成り立ちます。 故に t ≥ 1 秒の時
間帯においても正相等価回路は図27.2 のように表現できることになります。
さて、発電機の正相等価回路として、時間帯を三っに分けて図27.1 のように表現できることの
解説は以上です。 全時間帯を通じて近似条件として
x"d≅x"q, x'd≅x'q, xd≅xq
としていることに留意してください。すでに表25.1 に示したように非凸極機(火力機など)ではこの近似
条件は全く問題になりませんが、凸極機(水力機)では
x"d≅x"q は可としても
x'd≅x'q ,
xd≅xq
はちょっと無理があります。しかしながら、短絡事故点が水力発電機から少し遠くであれば発
電機のリアクタンスに変圧器や送電線の外部リアクタンスが加わることで
xd + xout ≅ xq + xoutと
なるので実用上はどのような場合でもこの近似条件を殆ど意識することなく図27.2 の正相等価
回路が使えるということになります。
27.2 発電機の逆相等価回路
次には図27.2 の逆相回路の根拠について解説します。
逆相電流は式(27.13)のように表現できます。

式(27.1a)との対比で 120° の前のプラスマイナスの符号が逆転していることに留意してくださ
い。 21.2 節 22 で定義された
dq0 変換式で変換すると

式(27.15b)は逆相電気量が
dq0 領域(orロータに括り付けられた
dq0 座標軸で見れば2 倍の角
周波数 2ω で回転しており、床に固定された座標軸で見れば正相電気量とは逆方向の回転角速
度 −ω で回転する現象であるということを意味しています。
ここで発電機の
dq 等価回路図27.1(No.25,26 でたっぷり解説しました)を思い出してくださ
い。発電機に逆相電流
i2(t) が流れる状態とはの
d 軸
q 軸等価回路に式(27.14b)のような 2 倍周
波数の交流が流れることを意味します。 正相電流
i1(t) の場合は定常状態で
d 軸回路に直流電
流がながれるのでしたが、逆相電流
i2(t) の場合では2倍の周波数の電流が流れるのですから、
その端子電流
id(t) も第1 分路・第2 分路・第3 分路にはそれぞれ概ねインダクタンス
Lad ,
Lfd,
Lkd の逆比で分流し続けることになります。 逆相電流によって第3 分路のダンパ回路にも電
流は流れ突けるということです。 このことは非凸極機では発電機ロータの表面(鉄心表面およ
び楔など)に電流が流れ続けることを意味するので重大な問題ですがこの点は後述することとし
て先に進みます。
逆相電流
i2(t) が発生した直後からそれが消滅するまでいつまでもこの状態は変わらないので
d 軸回路のインダクタンスは
x"d のままであり、同様に
q 軸のインダクタンスは
x"q のままで
す。故に、逆相電気量については

を得ます。発電機の逆相電圧と電流の関係式が得られました。 非凸極機では若干の第三調波
電圧項が含まれますが、
x"d ≅ x"q見なしてこの項を無視すれば次式となります。

図 27.1 の逆相等価回路を得ます。そして
x2 = (x"d + x"q)/2 となることも説明ができました。
27.3 発電機の零相等価回路
発電機零相回路についてはすでに式(24.2a)および図4.1 の等価回路で示したところですが、
No.24 の式(24.1b)および(24.1c)で解説したステータ電圧および磁束の式より

故に図27.2 の零相等価回路が無条件で描けます。
以上で図27.2 の対称座標法等価回路の根拠の説明が終わりました。
今回の解説で、逆相電流や高調波電流が流れ続けるとすれば図 27.1 の
dq 等価回路図でダン
パー分岐回路、すなわちダンパーコイルに交流電流が流れ続けることになることをも解説しま
した。 円筒型回転機ではロータ両面部位の鉄心やコイル溝の蓋の役目を果たす楔(Wedge)
に過大な渦電流が流れて急速に過熱して危険なことになります。この理屈は誘導電動機などに
ついても同じですが次回以降でじっくり解説することとします。
次回以降では発電機の能力曲線とか AVR と無効電力 Q の関係などより実践的な解説に進ん
でいくことになります。 皆さんご期待ください。
(2022年3月8日 長谷良秀 記)