abc 相皮相電力の 012 領域 dq0 領域表示
29.1 はじめに
さて、この連載ではNo.17~No.28 の10 回にわたり発電機の理論を解説してきました。 発電機が
回路としてどのように表現でき、またその中で電圧
v(t)・電流
i(t)・磁束
φ(t)という電気量がどの
ように振舞うかという視点で“発電機の回路理論”を学んだことになります。しかしながら、発電
機の電力

というより肝心な電気量が全く登場していません。 発電機は端子が開
放された無負荷状態では単に“磁束の変化率に比例する電圧
v(t) = dφ(t)/t を発生する“発電圧機”の状
態であり、負荷が繋がっているときに初めて“発電力機”の役目を果たしていることになります。 発
電機と負荷が接続されたセットの状態で初めて発電機の電力

の応動を論ずること
ができるわけです。そして“発電機(群)と負荷(群)が送電線を介して接続されたセットの状態” を私
たちは普段は“電力系統” “電力システム”と表現するわけです。 したがって“発電機の応動”あるい
は“負荷系の応動”とは“電力系統(or 電力システム)の応動(特性)”にほかなりません。 これからは
様々な条件下で発電機の集合体としての系統特性の解説をしていきます。 回路理論で主役として
登場する電圧v &電流i に代わって有効電力P &無効電力Q がより頻繁に登場することになります。
29.2 有効電力&無効電力および瞬時電力とその複素量表示
解説No.16 において交流回路の電力とは何か?について解説し、また有効電力無効電力の瞬時値等
について学びました。 その復習としてNo.16 で解説した式を再録します。なお簡明な式として解説
したいので電圧電流は基本波(50/60Hz 正弦波。高調波等を含まない定常波形)として表現します。
瞬時電圧・電流

有効電力の式のcos をsin に置き換えた値を無効電力
Q として定義したのです。
さらにEuler 公式
ejx = cosx + jsinx を利用して
皮相電力(Apparent power)を次式のように定義します。
電圧・電流・皮相電力のベクトル表示
なお、以上の説明では瞬時電圧電流を実数量
v(t) , i(t) として扱ってきましたが,もしもこれらを複素
量として表現する場合にはどのようになるかを確認しておきましょう。

の共役(Conjugate value)です。
瞬時電力

は商用角周波数の 180 度毎に 1 度その符号(パワー伝達の方向)が変化することになり
ますが、第1 項の
Ve・Iecos(α - β) だけ直流的にオフセットしていることになります。 それ故に

の周期平均値は正ないし負の一定値
Ve・Iecos(α - β) となります。 そこで万国共通の規格に
よって{
交流瞬時電力
の時間平均値を交流の電力 Pと称する}ように定義したのです。
29.3 任意波形の電圧電流に対する皮相電力の拡張定義
次には或る地点の電圧,電流が電源周波数
f = ω/2π 以外に高調波や直流分を含んでいる場合ある
いは過渡現象状態の場合など一般波形の電圧・電流瞬時値

に対する皮相電力

を拡張定
義したNo.16 の式(16.5)~(16.6c)等を再録しておきます。

“有効電力
P は同一周波数の電圧と電流の積の集合“として表現されております。“周波数の異なる電
圧と電流の積は周期平均をした平均電力には寄与しない” のです。 “50Hz の電圧と第
k 調波(周
波数
k x 50Hz)の電流の積も平均電流に寄与しない“ということにもなります。 無効電力
Q につい
ても同様です。
式(29.6a,b,c)は電圧電流の“50/60Hz 成分のほかに直流成分や高調波成分が含まれる場合に拡張し
た電力の定義式“ということができます。 ただしIEC やJEC などの規格では商用周波数(50/60Hz)
電力について定義していますが高調波等を含む場合の定義まではしていませんので、”高調波を含ん
でいても拡張定義ができますよ“と補足説明していることになります。
29.4 対称座標法による皮相電力
abc 相の電圧・電流・磁束、すなわち
abc 領域の変数を 012 領域に変換(対称座標法)、あるいは
dq0 領域(
dq0法)に変換する手法を通じて発電機の回路理論を解説してきました。そこで“abc
相の電力”が012領域や
dq0領域でどのように表現されるかを吟味しておきます。
任意波形の交流電圧・電流(瞬時値)を次式で表現することにします。

結局、電力を対称座標法で表現すれば上記の式(29.10c)のようになることが理解いただけたと思い
ます。 式(29.10c)より次のことが理解できます。

次に式(29.10)のPU化を実行します。
VA3φphase = 3・VA1φphase であることに留意して
29.5 dq0法による皮相電力
まずはNo.21で解説した
abc 領域と
dq0 領域の変数変換の定義式(21.2a)(21.2b)を再録します。

なお三相平衡状態であれば
ed(t), eq(t) and id(t), iq(t) は時間
t に依存しない直流量であったことを思い出してください。
Pb, Pc については上式の
θa を
θb, θc でに置き換えればよいですね。そして式(29.12c)の関係があります。
そこで三相電力の和を計算すると次式を得ます。

次に無効電力について同様の計算を行ってみましょう。
a 相の
Qa については式(29.13a)において
θa に代わって
θa + 90° とすればよいので次式のようになります。

式(29.13b)(29.14b)は
P + jQの形に合成して皮相電力として次のように整頓できますね。
d 相電力と
q 相電力の平均値に零相電力を加えた合計値が
abc 相電力の平均値となるのです。
最後にこの式のpu 化を行いましょう。ベース量は
abc 相電気量の実効値表現(典型的には発電機の定格電圧・定格電流)ですから
dq0 領域の式(29.15)にあった係数
1/2 がPU化された
dq0 領域式式(29.17a,b)では消滅してすっきり
しているが、代わりに零相の項で

の形になっている。もしも
abc 相電圧・電流が三相平衡状態であれば零相はゼロ即ち

となることは云う迄もありません。
さて、もともと
abc 領域で定義されている電力
P ,無効電力
Q ,皮相電力

は当然のことな
がら変数変換された012領域および
dq0 領域でもしっかり関連付けて表現することができました。
次回から具体的な発電機と負荷が couple 状態の電力システムの特性を勉強していくことになります。
ご期待ください。
(2022年5月21日 長谷良秀 記)