電力システムの応動特性とAVR(その3)
38.1 発電機の運動方程式
No.34,No.35などで発電機の運動方程式についていろいろ解説しました。最も大切な運動方程式について式番をあらためて再記します。
発電機の運動方程式

上式の各辺をベース量
ω0/M0 で割り算すれば右辺の係数が消えて見慣れた次式になります。

機械入力と電気出力が釣り合って
=0 であれば発電機は定速回転状態となり、また何ら
かの理由で
>0 の状態になれば加速し、
<0の状態になれば減速します。 またPΔが
ゼロの運転状態から突然増加(減少)すれば発電機はロータ回転速度が瞬間的に加速(減速)
しスリップ(slip)を生ずるが、ローターの回転エネルギー放出による同期化力(後述)によって
スピードを元に戻そうとする力が働き、結果として過渡的に回転角速度
ω がスイングする。
いわゆるパワースイング(Power swing)が生じます。
運動方程式が PU 化された式(39.1b)では慣性定数
M0 が消えてしまいますが、本来は式
(38.1a)の関係にあります。
M0 が大きいほど
ΔP が生じて発電機の加速・減速が少なくて望ま
しいといえます。
慣性定数
M0 ,が単位慣性定数
M として、両者は下記の関係があり、また
M は標準的に表34.1
に示したように6~15の値であること等はNo.34で解説済みです。
38.2 発電機の運動方程式
ここでちょっと立ち止まって、発電機の体格と定格出力がどのような関係にあるかについて考えてみましょう。
図38.1 は発電機の原理図です。ロータは角速度
ω で回転しているのでロータN極から発し
た主磁束がステータコイルと鎖交するループ面積は
Scosωt です。そして、時間
t における鎖交
磁束数(主磁束)
φ(t) は有効な鎖交面積
Scosωt、ターン数
N,主磁束の磁束密度
Bに比例するは
ずですね。

そしてこのコイルが機械力によって回転するとFaraday則で
φ(t) の変化速度に比例した端子電圧が発生します。

機械力の方向F,鎖交する磁束の方向
φ(t),起電力
e(t) の方向はフレミングの右手則で説明さ
れます。 この段階で負荷回路が繋がっていなければ発電機は単に起電力
e(t) を発生するのみ
で電流iは流れない。発電機は本来“Faraday則による電圧発生機”であるともいえます。そし
て発電機は起電圧
e(t) を発生しているので負荷回路が繋がっておれば(負荷とループになって
おれば)発電機端子に電流
i(t) が流れます。
無負荷状態で回転角速度
ω を一定に保ちつつ電圧を所定の値に保つためにはロータから発
する磁束を減じて磁束密度
B を弱めるしかない。 その状態で遅れ力率の負荷が繋がれば端子
電圧
e(t) が低下するであろうから端子電圧を一定に保持するためには磁束密度
H を増加する
必要があります。
今,図38.1のように発電機には抵抗
R とインダクタンス
L の直列負荷が繋がっているとします。

前にも解説しましたが、リアクトル(インダクタンス
L)は180度周期で磁気エネルギー
の蓄積と放出を繰り返すので時間平均としてはパワーを消費しない。 発電機としては式
(38.3b)の右辺の“瞬時パワー
P(t)[W] ”を供給し続けている。発電機はいつも“単位がWattの有
効電力”を出力しており、 “Watt にあらざる無効な電力”など出していないのです。右辺第2
項と3項の影響で右辺第1項のパワー
R.I2 が180度ピッチで少し脈動するだけですね。しか
しながら歴史的な理由で式(38.3b)の右辺第2項、
Lによる充放電パワーを”無効電力reactive
power[Var]”と名付けて使っているということです。
式(38.2a,b)に話を戻します。
発電機の単機容量は発電機の全てのコイルと鎖交する主磁束の大きさに比例する。そこで
式(38.3b)をより実用的な形に書き換えた次式が成立します。

火力発電機に関する現在の最大単機容量は1,000MVA~1,300MVA級に達しており,1950
年当時の50~100MVA級と対比して20倍になっていますが、その体積
D2.Lshaft はおそらく3
~4倍程度にとどまっています。 体積は既にこれ以上大きくできない極限に達しています。
今日見られる単機容量の大容量化は
D2.Lshaft の3~4倍の大型化に加えて磁束密度
B と電流密
度
C の著しい技術進歩によって20倍もの大容量化が実現したといえるでしょう。 もう少し具体的に説明します。
38.3 発電機の回転速度調整:スピードガバナ
個々の発電機の負荷出力は絶えず気まぐれに変動するが、それに追従して発電機回転速度
ωm が系統角速度
ω=2πf に絶えず一致するように原動機入力を負荷に見合って制御する必要
があります。そのための役割を果たすのがに各発電機に付属するスピードガバナー(SG:Speed-governor)です。
もしも系統角周波数
ω=2πf との対応で発電機の回転速度が低下(増加)すれば、火力タービ
ンの蒸気量を制御するコントロールバルブ(CV:Control-valve)または水力機ガイドベーン(GV:Guide-vane)
の開度を大きくして(小さくして)機械入力を増大させて速度の遅れを取り戻すように制御する。
スピードガバナーは発電機の定格容量の3~5%程度の範囲内で回転角速度の変化
Δωm を検出してスピード変化を食い止め、
あるいは元に戻す役割を果たすのです。結果として
f → f ± Δf
の変化に対して
P → P ∓ ΔP の発電機出力制御をします。
図38.2は水力機用の機械式ガバナーの基本原理を示しています。図においてスピーダは発
電機に直結されて速度
ωm で回転している。もしも発電機回転が
ωm → ωm + Δωm に上昇すると
鋼球製の遠心錘が遠心力で開いてスライドリングを押し下げる。 その結果水平レバーが
P0-C0 の位置から
P2-C2 の位置に傾きパイロットバルブを押し上げることで油圧サーボが
動作してガイド弁を閉方向に制御して水量を抑制する。この過程でガイド弁の応動が速すぎる
と圧力鉄管を流れ下る水の慣性により鉄管やバルブに急激に過度の水圧が加わり(ウオーター
ハンマー現象)、あるいは逆ならば鉄管内の減圧真空化状態になり、圧力鉄管やガイド弁の破
壊事故を招きかねない。 その様な事態を避けるために開閉の変化幅(MW%)と変化速度(
MW%/sec)をある範囲内にとどめる必要があります。 そのため水力用のガバナーには応動
抑制機構としてダッシュポットが備えられている。これにより開閉操作速度が抑制されていま
す。 なお近年では図38.2に示すような機械式ガバナー代わりに電気ガバナー(発電機の回
転速度を検出してからパイロットバルブにへの信号造出までを電子的に作る)が多用されてい
ますが、その原理は機械式ガバナーと変わるところはありません。
火力の場合もガバナーの基本原理は水力の場合と同じであるが、過熱水蒸気ガスは膨張収
縮が可能なのでコントロールバルブの急速閉操作または開操作による蒸気量の急速増減によ
ってボイラー・タービン系が損傷する懸念はない。そのためにダッシュポット機能が省かれて
おり、0.1~0,2秒で数%の出力変動が可能で即応性に優れています。
その一方で、火力機は3,000rpmあるいは3,600rpmで高速回転しているので定格速度以上の
オーバースピードに対して極めて敏感である。また大小多数のタービン翼の共振周波数がさま
ざまなので定格速度より低い速度領域にも問題が有ります。 そのために一般的に厳しい速度
制限を加えて運用されます。
表38.1は電気学会技術報告が示された標準的な運転限界です。
なお、火力機ではコントロールバルブの他にエマージェンシーガバナー(Emergency
governor)としてストップバルブ(Stop-valve )を備えています。緊急停止を要する時に蒸気の
タービンへの供給を遮断して大気に逃がす等の機能です。

系統の負荷量は時間帯により大きく変化するだけでなく、常時も気まぐれに変動していま
す。これに対して複数発電機の合計出力を追従制御させることによって系統の周波数を一定
範囲内(例えば50/60
Hz±0.05
Hz)に維持する必要があります。図38.3は負荷変動の概念図で
す。ある系統で実負荷が図中の“トータルの実負荷変動”のように時間変化するとして、概念的
に図の
S(持続変動負荷Sustained change),
F(脈動変動負荷Fringe change),
C(サイクリック負
荷Cyclic change)成分に分解することができます。 図のサイクリック成分
C の様な小刻みな
変動は主として即応性の優れた火力機のガバナー制御によって追従させ、またそれよりゆっく
りのフリンジ成分
F は水力のガバナーが受け持つことが良いとされます。 ただしその他の
要因(たとえば“ガバナー追従制御可能な発電機の不足”“高効率新鋭火力はフル出力一定運転
が必要”等の理由)で柔軟な運用が求められます。サステンド成分
S は電力会社の中央給電指
令室からの AFC 制御(Automatic frequency control)や ALD 発電制御(Automatic load
dispatching control)で対応されることになります。
今回はここまでとします。
(2023年2月16日 長谷良秀 記)