方向距離継電器の理論 その3
41.1 a相1線地絡時の方向地絡距離リレー44G=1,2,3の応動
前回は R-X 座標の解説に続き
bc 相 2線短絡時の方向短絡距離リレー(44S-1,2,3)
のR=X座標による特性表示の解説をしました。 今回はその続きです。
地絡距離リレー(44G-1,2,3)のa相1線地絡時の応動特性について解説します。44Gは中
性点インピーダンス接地系統では使えません。それで直接接地系を対象とする検討と理
解してください。

44S-1,2,3リレーでは
(Va-Vb)/(ia-ib) 等をリレーの入力としました。 その延長線上で
44G-1,2,3では
Va/ia 等に入力を変更すればよいと思い勝ちですが、それほど単純ではあ
りません。 短絡リレーの検出原理では正相インピーダンス
Z1 と逆相インピーダンス
Z2
のみが登場し、しかも両社は概ね等しく
Z1≅Z2 であるという前提で理論が成立していま
した。 しかし地絡事故ではゼロ相回路インピーダンス0Zが関係し、なおかつ
Z1≅Z2≠Z0 であるために話はよりややこしくなります。 もう一つ、平行2回線の場合
には1号線と2号線のゼロ相回路には相互インダクタンスが存在するのでその対策も必要
になり一層ややこしくなります。
a 相1線地絡時の対称座標法等価回路は図41.1のようになります。図で事故点は1号線の
f 点、保護リレーの設置されている変電所は
m 点です。
この時、次式(41.1)が成り立ちます。

この状態でリレー設置点 m における電圧・電流関係式として次式(41.2a)を得ます。

したがってリレー44G-1の見るインピーダンス
RyZa は上式を書き代えて次式(41.2b)のように表現できます。
C1 は
f 点の正相事故電流
fI1 のうち
m 変電所の1号線から流れ込む電流の割合を示し
ています。事故点
f が
m 変電所に近ければ
C1≅1.0 であり、
n 変電所に近ければ
C1≅0.5 になります。
そこで保護リレーの動作アルゴリズムとして式(41.3)の式に従って分子のベクトル
電気量
mVa-(z0-z1)mI0-z0M・mI'0 を合成してそれを分母の電気量
mIa で割り算するこ
とで得られる式
RyZa がある閾値(動作限界)を超えるかどうかという判定を行うことになります。
式中の
m 変電所の
mI0 と
mI'0 はそれぞれ1号線と2号線のゼロ相電流ですが、リレー盤
は隣合って列盤になっているので隣回線の電流も簡単に使うことができます。ゼロ相電
流
mI0 と
mI'0 はもちろん自回線と隣回線の
Ia,Ib,Ic および
I'a,I'b,I'c から合成して作ります。

44G-1の
RyZa は正確にその前方距離インピーダンス
Z1 (方向および距離を)測距します。
そしてその動作領域は
R–X 座標上で
C1, C0 、
Rf をパラメータとして描くことができます。
他方の
RyZb, RyZc は i
C1,
C2,
Rf に加えて
fZ0 が第4のパラメータとなるのでこれら4っの条
件を与えれば
R-X 座標に描くことができます。
皆さん、パラメータを決めてぜひリレーの見る軌跡を描いてみてください。
41.2 中性点抵抗接地系統で44G-1,2,3が使えない理由
さて、中性点抵抗接地系の154kv,66/77kV 系では44Gが使えない。その理由をはっきりさせておきましょう。
図41.1の等価回路図でゼロ相回路にて、変電所地点で変圧器とその中性点抵抗が存在するケースをイメージしてみてください。
154kV系で説明すれば、変圧器中性点には例えば 200A 接地の抵抗
Rg が挿入されています。
154/
kV の電圧で200A流れるような抵抗値ということですから
Rg=(154/
)x103/200=445Ω の抵抗が中性点に挿入されているということです。
線路リアクタンス
X1≅x, x0 として当然下記の大小関係があります。

これでは送電線路の長短関係に応じて変化する
x1 の大小関係などは
3Rg に埋もれてしまい測距はできないことになります。距離継電器44Gがインピーダンス接地系で使えない理由は以上です。
代わりに地絡方向リレー67Gが活用できます。
v0 と
i0 の位相関係から事故がリレー設置点の前方か後方かを判断する理屈です。 測距性能はないが方向判定の能力は有するということです。
今回の解説は短めですが切りが良いのでここまでとします。
(2023年7月20日 長谷良秀 記)