電力技術理論徒然草 No.42 (長谷良秀) 
     
方向距離継電器の理論 その4

42.1 有負荷事故時のインピーダンス軌跡と距離継電器の応動
前回までは方向距離継電器(DZ-Ry)が2線短絡や1線地絡などいろいろのモードの事故を R-X座標においてにどの様な軌跡として見るか? また動作するかどうか?という基本原 理について解説をしてきました。これらの解説では事故の直前に流れている負荷電流に ついては特段説明しませんでした。 あるいは暗黙裡に送電線が無負荷状態で事故が生 じた場合について解説してきました。そこで今度は送電線にあらかじめ負荷電流が流れ ている状態で事故が生じた場合に DZ-Ry が事故をどのように見るかについて解説しましょう。
任意の変電所のRy設置点において複素電圧 複素電流であるとします。
保護 Ry はを見ています。
  通常の負荷状態では
  であり、 また力率は概ね1.0程度でしょう。 したがって DZRy はこの負荷状態を R-X 座標で第1象限でR軸に近くで Z=1.1∠δ∼+α∠δ (ただし力率角δ=0°∼+20°) 当たりでみているでしょう。これを Zload と記すことにするとします。


一方で無負荷状態で事故が発生するとして、Ry の見インピーダンス Zfault は既に学んだように R-X 座標の第1象限内でX軸に近い領域に入ってきます。
それでは送電線に負荷電流が流れているときに事故が発生した場合には Ry が見る軌跡 Ztotal はどのようになるか? これが今回の解説です。



図42-1において有負荷時の軌跡 Zload と無負荷状態の時事故時の軌跡 Zfault が書き込まれています。

事故前電流と無負荷事故状態の電流については重畳の理が成り立ちますから有負荷時の事故時については次式が成り立ちます。


さて図42.1では を知っていて を描いた結果が示されています。 は 簡単に幾何学的に描けるのです。 同図で負荷が重くなると遠くの事故でも DZRy は近く に見てしまい誤って動作する可能性がありますね。 このような時、「 Ry が誤動作した」などといいますが・・・私的には「 Ry は正しく動作した」「扱う人が整定 を誤った」ということですね。整定ミスをRyの不具合のように言い換えることは感心し ませんね。 これって元メーカ族の密かなつぶやきです。



さて本論に戻って図42.1はどうしてこのように描けるのでしょうか? その答えは図42.2にあります。
図42.2 はベクトル を知って を求める幾何学的方法が描かれて います。皆さん、頭の体操です。高校生に戻った気分でこのクイズを解いてみてくださ い。結構楽しいです。
(2023年8月22日 長谷良秀 記)
 
     
   
     
 
 
 
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