6kV高圧配電系&100/00V低圧配電系の中性点接地方式
49.1 配電系統の分類とその中性点接地方式
前回までは60kV~500kV 級の系統の中性点接地方式について解説してきました。 今回は配電系統
について同様の切り口から解説を続けることとします。
日本の低位電圧階級は電気事業法施行規則によって次のように規定されています。
ⅰ)
特別高圧:
代表例 60/70kV 三相三線方式
特別高圧の定義は「7kV以上の線路」であり、電力会社の保有する線路は60kVないし70kVの
いずれかです。ただし戦前から長い歴史のある工場で40kV20kV等の電圧が採用されているケー
スもあります。
ⅱ)
高圧配電:
6kV 三相三線方式
日本の高圧配電線は1060年ごろまでは3kVでした。高度成長期になり負荷容量の増大と歩
調を合わせて配電系統(工場内動力系も含めて)の新設設備は6kVに統一された結果、既設の3kV
系は自然淘汰されて現在では6KVで統一されています。一般には配電用変電所にて60/70kV特
別高圧から6kVに降圧して柱上あるいは地下ケーブル構成の6kV配電線として給電されていま
す。 ただし限定的な例外として一部の都市地域において60/70kV級特別高圧から中間的な
20kV級と30kV級(中抵抗接地方式)に降圧し、さらに6kVに降圧して供給しているケースもあり
ます。
ⅲ)
低圧配電:
600V未満の回路 ⇒ 標準電圧100V,200V,240V,415V
配線方式: 単相二線式 単相三線式 三相三線式 三相四線式
項目ⅰ)の接地方式については前回解説しましたので今回は項目ⅱ)6kV高圧配電とⅲ)200/100V
低圧配電の接地方式について解説します。
49.2 高圧配電(6kV/7kV)三相三線式(中性点非接地)の解説
前項ⅱ)で記したように現在の日本で配電線と云えば6kV三相三線式(中性点非接地方式)を意味す
るといってよいでしょう。
6kV配電線は多くの場合は配電用変電所の60(or70)kV/6kV配電用変圧器の6kVΔ巻線から3線で引き
出されます(図49.1)。 変圧器の6kV側はデルタ結線ですから中性点端子がありません。したがって
三線式&中性点非接地方式の引き出しとなるわけです。 ただし配変の6kV側母線には図49.2のよう
に接続された
零相電圧検出用電圧変成器/b>(GPT:Grounding Potential Transformer)が必ず設置されて
おります。GPTの2次側はオープンデルタ(Open-delta)結線となっており、ゼロ相電圧
3v0(=va+vb+vc)検出用のリレー・メーターが接続されています。このオープンデルタ結線
の開放端の負荷抵抗は(リレー・メーター負荷の他に通常数十~数百Ω程度の抵抗が接続さ
れるので6kV側換算で数千Ω以上の高抵抗で接地されているのと同等となります。
試 算 : a相1線地絡時の電圧と地絡電流
6kV換算 R≅10kΩ程度の接地と仮定します。
a相1線地絡時の地絡電流と電圧は

6kV配電線で1線地絡が生ずると R≅10kΩ 程度として地絡電流 ia が0.38Aあるいは380mA
ほど流れることを意味します。1A未満ですからごくわずかの地絡電流が流れるだけという
ことになり、ほぼゼロに近いのでので慣例的に「中性点非接地方式」と名付けられていま
す。ただ厳密にいえば地絡電流はゼロではなく1A未満の電流が流れるわけですから、回
路理論的には「中性点超高抵抗接地方式」あるいは「中性点微小電流接地」と理解すべき
でしょう。
次に電圧について考えます。a相地絡前ではabc各相導体の電位は3.9kVです。 a相1線
地絡が発生したとしてその時の電圧は三相平衡のままで |vab|=|vbc|=|vca|=6.6kVです。
中性点非接地方式の場合には a 相地絡になっても |vab|=|vbc|=|vca|=6.6kV のまま、すなわ
ち電圧の正三角形ベクトル関係は崩れません(直接接地系や高抵抗接地系では再三角形の平
衡性は崩れます)。a 相接地点電位を基準のゼロ電位とすれば b 相電圧が3.9kVから6.6kVに
跳躍したことになります。c相電位についても同様です。 中性点非接地方式の特徴を整
理して記せば次のようになるでしょう。
6kV中性点非接地三相三線式の特徴(長所)
1線地絡の電流を1A未満に抑制できる(◎)。
⇒➀ 地絡事故時の電流被害(やけど・火災など)を局限できる(◎)。
⇒➁ 低圧100/200V側と混触が生じた場合の低圧側対地電圧上昇を局限できる(◎)。
⇒③ 通信線電磁誘導障害がほとんど生じない(◎)。
⇒➃ 1線地絡時の健全相電圧が3倍に跳躍する。(直接or低抵抗接地ならば1.5杯程度の跳躍に留まる)(Δ)
⇒⑤ 事故検出リレーの主体はゼロ相電圧リレー等になる。電流リレーや地絡方向リレーが適用しずらい。 樹木接触事故などを検出しにくい(Δ)。
6kVと低圧100/200Vは電源盤などで近接して配線されている箇所が多いので混触が生じや
すい。また信号系デバイス(24V/12V回路など )も近接して同居しています。6kV系の中性
点非接地方式は低圧系の保安や制御・通信系への生涯防止の観点から非常に素晴らしい方
式と云えるのです。 6kV級の配電系統では中性点非接地方式は上記➀②③の利点が極め
て大きいのです。 ④⑤の欠点をはるかに凌ぐと言い切ってよいでしょう。

49.3 低圧配電(100/200V)の解説
低圧配電とは一般に6kV架空配電用電柱(または地中ケーブル)を介して道路沿いに敷設された6kV電
圧が柱上変圧器などで100/200V三相&二相配電線として一般家庭の軒先電力計を経由して末端負荷
に渡される電圧です。一般建屋内のいわゆる屋内配線です。 図49.2 がその一般的な構成です。
100/200V側はデルタ結線になっているのでゼロ相回路が6kV側と絶縁されていることになりま
す。したがって6kV側で万一1線地絡電流が流れても200V側には大きい影響は生じないことになりま
す。 ただし6kV側で2線短絡や3線短絡が生ずれば100/200V側にもインピーダンス逆比で相応の大電
流が流れることになります。

49.4 日本の中性点非接地式6kV高圧配電と10/200V低圧配電方式への評価
ここ数回の連載では高圧&低圧配電から60kV以上の特別高圧さらにEHV/UHV級の電圧階級につ
いて総覧して歴史的な経緯についても記してきました(No.46)。次に中性点接地方式の回路理論的
事項を復習したうえでEHV/UHV級が世界的にも例外なく中性点直接接地方式であることを解説しま
した(No.47)。また200kV未満の系統については各国それぞれの歴史的な背景があって中性点接地方
式もまちまちであること、そして日本では高抵抗接地方式(ただし沖縄は直接接地方式)などを解説
しました(No.47)。 また日本で戦前の主流接地方式であった消弧リアクトル接地方式の理論的根
拠等について解説しました(No.48)。 そして今回No.49では日本の6kV高圧配電(中性点非接地
式)と100/200V低圧配電方式について概説しました。
さて、60kV以上200kV未満の中間電圧階級の中性点接地方式に話を戻します。 このクラスは日本
では高抵抗接地方式、アメリカでは直接接地です。欧州各国はどのようになっているか筆者は勉強
不足で良く知りませんがおそらくは各国まちまちではないかと思います。 欧州では各国ともに配
電系統は第2次大戦前の時代とさほど変わっていないはずなので、各国で異なる方式となっているの
も当然でしょう。 韓国は日本統治の戦前から戦後時代までは当然高抵抗接地方式でしたが1970年
ごろにアメリカ式の直接接地方式に一斉変更されました。当時の系統が比較的小さかったので一斉
変更ができたのでしょう。 戦後アメリカの影響が強かった東南アジア各国は直接接地系が多い
ようです。
1970年代の日本は500kVの建設も始まり中間電圧に代わってEHV/UHVが主幹系統となった時代で
す。この当時、日本でも60~154kV級を直接接地系に変更することを主張する一部意見もありまし
た。しかしながら高抵抗接地方式がそのまま堅持されました。 その理由について筆者なりに解説
しましょう。
第1の理由: 中性点高抵抗接地方式を直接接地方式に切り替えるメリットが少ない。
200kV以上のEHV/UHV以上のクラスでは送電線および変電設備の絶縁設計上直接接地系統の方
が技術的にも経済的にも断然有利になります。 しかしながら200kV未満の中間電圧では直接
接地系による絶縁設計上の優位さほとんどなくなります。 むしろ1線地絡電流が小さくなるこ
とによる前述した➀②③などの利点(保安・誘導障害など)の方がはるかに大きくなります。
地絡距離継電器44Gが使えないが地絡方向リレー67Gが適用できるのでさほどの不離には
なりません。
第2の理由: 直接接地方式に切り替えるのは変電所の接地抵抗低減策や保護リレー方式の全面
変更など既設設備も様々な仕様変更を必要とします。 1970年代に既に十分大系統に発達して
いた日本でこれらの変更をすることは事実上不可能でした。 要するに費用対効果の点で切り
替えなどはほぼ無意味だったのです。技術的にも経済的にも「労多くして利なし」であったわ
けです。
さて、中性点接地方式の話を締めくくりましょう。 電力設備・電力グリッドは各国あるいは各
地域それぞれに大地に張り付いて建設され、世代を受け継いで増改築を繰り返していくものです。
したがって個々の国や地域の歴史的経過の上に立って現在の状況があることになります。
EHV/UHV級はもう直接接地系が断然有利なことは明白です。 ここで突然のクイズとして「60
~154kV級の中間電圧で中性点接地方式として直接接地の高抵抗接地のどちらが良いか?」と問われ
たら皆さんどう答えますか? 私の答えは「プラスマイナスがあるので一概に良し悪しを言えな
い。 ただ私個人としては総合で高抵抗接地方式の方が優れていると考える。」といったところで
す。
脱線ですがご承知のようにETAPではアークフラッシュが中心的機能の一つとなっています。メタ
クラや電源用キュービクルの標準性能としてアークフラッシュ対策基準が欧米では常識的になって
きました。日本では欧米の流れに引きずられる形で関心が少しづつ高まって来ていますが、何とな
くそれほどの切実感が乏しい現状も否定できません。私見ですが、その理由の一つは「6kV高圧配電
クラスで1線地絡が発生しても大電流が流れない」ということで欧米に比して大掛かりな人身事故や
火災の原因となる事例が少なかったことがあるのではないかと思っています。 配電クラスでも直
接接地(有効接地とも云います)方式を採用している国々では短絡地絡等の保安問題がより深刻であ
るに違いありません。 日本の中間電圧系の高抵抗接地i方式や配電の非接地方式はなかなか優れた
方式なのです。
(2024年6月2日 長谷良秀 記)