電気技術解析記述法発展史:(その3) Gauss の電気則および磁気則
53.1 電磁気学草創期(1830~1850年代)の開拓者たち
前回はOersted やAmpereが明らかにした電流と磁気に関する知見を基礎にしてFaradayが
自己誘導&相互誘導現象や電気&磁気の可逆性を説明する実験に成功したことなどを中心
に解説をしてきました。
FaradayやHenryの偉大な発見の時1831年前後を起点に多くの科学者達が電気・磁気
を数学的に表現し,関連付ける努力を開始しました。 例えば,Heinrich Lenz(1804-
1865)は 1833年にレンツの法則によって“
誘導電流はそれによって生ずる磁場が磁束の変
化を妨げるような方向に流れる”ことを明らかにしました。 Franz Ernst Neuman(1798-
1895)は 1841年に電磁誘導に関する具体的な計算式を明らかにして今日的な意味での電
磁気学の構築、あるいは電磁機械設計計算理論の確立という両側面で大きい役割を果たし
ました。理学的・工学的にインダクタンスを計算できる計算式を確立したと言い換えても
良いでしょう。
Hermann Ludwig Helmholtz(1821-1894),Wiliam Thomson(1824-1907,Lord Kelvin
の名でも知られる)やその他の科学者たちは電気と他の形のエネルギーとの関係を明らか
にしていきました。 James Prescot Joule(1818-1889)は 1840年代に電流と熱の関係を分
子論的に論じて“物質に電流を流すと電子の移動で分子の活動が活発になって熱を発生し,
その熱量は電流の二乗に比例する”ことを示しました。Gustav Kirchhof(1824-1887),
Kelvin,Henry,George Gabriel Stokes(1819-1903)らは電気の導電性と流れに関する理
論を拡張していきました。 Wilhelm Eduard Weber(1804-1891)も電気と磁気を結びつけ
る偉大な理論を創出してMaxwellの先駆け的な貢献をしています。
Faraday 大発見に続く 1840年代は電磁気学がニュートン力学に加わって物理学が大発展
を遂げる契機の時となり、また工学的な電磁機械実用化時代への一大契機の時ともなりま
した。 電気の時代の到来です。
ただFaradayより20歳ほど前の世代で電磁気学の理論発展に大きい役割を果たした偉大な
数学者・科学者がいます。 Karl Friedrich Gauss(1777-1855)です。 Gauss はOerstedと
同年の1777年生まれです。 ガウス積分・ガウス関数・ガウス分布・ガウス座標・ガウス
単位・ガウス記号・ガウス・ザイデル計算法‥等々Gaussの名を冠したった広範な理系用
語からも明らかなようにGaussは数学&物理科学に偉大な足跡を残しています。 今回は
Gaussが草創期の電磁気学分野で成し遂げた偉大な業績として
Gaussの電気則でと
Gaussの
磁気則について平易な解説を試みることとします。 電磁気理論の基礎としてGaussが定式
化を成し遂げた重要な法則です。
53.2 電磁気学草創期(1830~1850年代)の開拓者たち
Gaussの電気則,磁気則を理解するための予備知識として、絶好の譬え話から始めること
とします。
いま芝生散水用のボール状全方位散水口(スクリンプラー)から勢いよく水が全方位に
一様に噴射されているとします。 水はボールから
湧き出て上下東西南北の全方位に噴射
されて一直線に遠くまで飛ばされます(重力や空気摩擦は考えない)。 水の毎秒噴射量
Q とします。ボールから距離
r の位置にある仮想の球をイメージします(図53.1)。散水口
はこの球の中央の1点にあって全方位に均等に散水しているので、この球表面のどの微小
部位
ds においても散水密度
D は均一です。 半径
r の球表面の面積は
4πr2 ですから当然
Q = D x (4πr2) or の関係が成り立ちます。

次に前述の仮想の球表面に代わって散水ボールを内に包み込む任意の閉曲面(
Gauss 面と
いう)を想定して考察してみよう。散水口はこの閉曲面の内部にあって毎秒噴射量は
Qであ
り、また噴射された水は衰えることなく全方位に均一かつ一直線に閉曲面を通り抜けて遠
ざかるとします。 いま、想定した閉曲面の任意の微小面積
ds における散水密度を
D と
します(図53.2)。 ただし微小面積
ds の法線
n は散水口からの法線方向に対して角度
Θ だ
け傾いているとしなければならないのでこの微小面積
ds における散水の有効面積は
ds'(=ds・cosΘ) です。 散水口
Q から ds に向かう円錐をイメージして、この円錐を半径
r の球面が切る面積が
ds′ です。 結局、微小面積

における散水密度を
D として、この
部分を通過する毎秒の散水量は
D・ds′ (=DcosΘds ) となります。そして微小面積
ds を
閉曲面全体で面積分すれば毎秒の散水量
Q に一致するはずです。
したがって

なお、Gauss平曲面の内にある散水口をどこに移動しても式(53.2)が成立することは自明です。
さて、散水口から湧き出る水が全方向に一様散水される場合について考察しました。たとえ話はここまでです。
電束(電気力線)あるいは磁束(磁気線)についても同様の思考法で理論構築ができます。
以下ではGaussのこの電気則と磁気則について考察します。
53.3 Gauss 面とGauss の電気則
真空空間の1点に電荷
+Q があるとします。 一様な真空中(誘電率が
ε0)では 電荷
Q から
発せられる電束は全方位に一様の放射状に分布するはずです。電束の行き先は無限遠の天
空に均等分散する電荷
-Q です。電荷
Q から発せられる電束の総量はもちろん
Q に比例し
ます。 Gauss の時代、まだ有理単位系はありません。ですからGauss は「いわゆる
Gaussの非有理系単位法で 、電荷
Q から発せられる電束数は
Q 本と考えて」理論を組み立
てます。

いま、この電荷
Q を完全に囲む任意のGauss閉曲面(Gauss面)について考察します。
閉曲面の任意の微小区間dsを体とする円錐空間をイメージします(図53.2)。図で電荷
Q
を起点として電束
dQ が立体角
dω の円錐空間を外に向かって一直線に向い、ガウス面で微
小面積ds を通過する。その
ds の電束密度を
D とする。 この微小面積
ds における電場
の強さ
dE は
ds の法線
n (
nは面
dsと直角方向を向く単位ベクトル)と角度
Θ のずれがあ
ります。 そこで
dE を直角に切る微小面積
ds′ をイメージすると
ds'=cosΘxds cosdsdsθ′=× の関係が
得られる。 「
ds′はこのガウス閉曲面の立体角
dω の円錐面を半径
r の球で切る面積であ
る」と言い換えることもできます。
る」と言い換えることもできます。

閉曲面
S の微小面積
ds を切り取り
dQ によるこの点の電場の強さを
dE とすると

式(53.3)(53.4)を式(53.5a)に代入すると次式(53.6)を得る。

距離
r 部位にある微小面積
ds が寄与する分は距離
r に無関係で立体角
dω のみに関係しています。
dω (半径1)を全球面で積分すると

であることに留意して、式(53.6)の
dω
を閉曲面全体で面積積分すれば

となります。
Gaussのこれが電気則です。
結局、Gauss 閉曲面の内部に電荷
Q が或る時、閉曲面のどの微小面積
ds においても式
(53.7)が成立している。 したがって、この閉曲面に複数個ある場合は
Q に代えて

となります。
物理的意義
Gaussの電気則を言葉で言い換えてみましょう。
Gauss閉曲面に全電荷

が或る時、

なお、ここで“出ていく量”とは代数的な言い方であり、入ってくるときは負の量と考えて
代数的な和を意味しています。 もしも閉曲面内にマイナス電負荷があれば電束が入って
くることになります。 閉曲面に電荷が無ければその閉曲面内には電束は存在しない。
53.4 Gauss 面とGauss の磁場則
次に磁場について考えます。
磁場についてもGauss閉曲面を考えることができます。 ところで電場には電荷があっ
て電荷から電束(電気力線)が湧き出てきます。 ところが、“磁荷”というものがあって、
そこから全方位で磁束が湧き出てくるのではありません。 磁束を湧き出させる磁荷は存
在しません。
磁束(あるいは磁力線)は基本的にループ磁路を構成する。いま、Gauss閉曲面をイメー
ジしてその近傍にある1本の磁束ループを考えます。磁束はガウス平面に交差しないか、
または複数回交差する。 したがって、閉曲面に入った磁束数だけは必ず閉曲面から出て
くる。 磁束はGauss 閉曲面を通過することはあるが、閉曲面内で創出される(湧出す)あ
るいは消滅する(吸い込まれる)ことはありえない。 換言すれば、Gauss 閉曲面には磁束
の湧き出しあるいは吸い込みは生じない(電荷に相当する磁荷は存在しない)。
したがって電場の場合のGauss式(53.7a)(53.7b)を援用して次式を得ます。 ただし湧き出
る磁束数はゼロです。

さて、Gauss の 電気則としての式(53.7a,b)および Gauss 磁気則として式(53.9a,b,c)
の解説に辿り着きました。偉大な Gauss の業績です。ただしここで留意すべきことがあり
ます 。 Gauss は電気則と磁気則を確立しましたが、二つの法則の相互関係を説明はしてい
ません。 言い換えれば電気則の単位と磁気則の単位は別物であり統一されていません。
まだこの時代、電気磁気を結ぶ共通単位の概念などは等は誕生前ということです。
両式の統一する理論は Gauss や Faraday より後の Neuman や Wilhelm Eduard Weber(1804-
1891)Weber その他の学者によって1831~1860年代に一歩一歩築かれていきます。
後年の1864年、James Clerk Maxwell(1831-1879) は電磁波理論を創出します。電磁波理
論を説明する
Maxwell 4っの方程式が有名です。 その第1の式が Gauss の電気則の式
(53.7a,b,c)であり、第2の式がGaussの磁気則の式(53.9a,b,c)です。 電磁気学初期の時
代におけるGaussの功績の偉大さがわかりますね。
今回はここまでとします。
(2024年9月10日 長谷良秀 記)