電力技術理論徒然草 No.7 (長谷良秀) 
     
 
対称座標法(Symmetrical Components:012 法):その1

  前回のNo.6 で重電系の電気技術者にとって最も大切な複素記号法について解説しました。複素記号法 を東横綱とすれば間違いなく西横綱の対称座標法について解説したいと思います。

7.1) 対称座標法は三相回路や機器を表現するお品書き言語
  実は大学高専では電気回路理論として は教えるでしょうが対称座標法は殆ど教えません。 そこ で皆さん、「対称座標法は三相回路の計算に必要なツール」とか「保護リレー屋とか解析屋が知っておれ ばいい理論である」などと誤解してしまって、食べず嫌いになっていませんか? それは大間違いです。 私は非常に多くの技術者が対称座標を全く知らないか、本当のところがわかっていない半可通の域にと どまって苦労している現実を知っています。
皆さん, 発電機や変圧器、大形巻線電動機 などの銘版記載事項を思い出してください。 リアクタンス がX1, X2, X0 などと対称座標法によって記されていますね。 送電線やケーブルなどのインピーダンス も全て対称座標法によってZ1, Z0 などと表現されます。およそ三相回路を構成する全てのメンバーの仕様 なり性能なりを記述する方法自体が対称座標法によって表現されているのです。 三相回路の全体を、 あるいはその構成メンバーの仕様や性能を表現する“お品書き”自体が対称座標法を使って初めて表現 できるのです。 ですから対称座方法が本当にわかっていないとすれば、三相回路,三相機器の銘版すら 読めないということになりますね。外国のレストランのお品書きが全く読めず苦労する状態と同じとい えるかもしれません。対称座標法は複素記号法と合わせて電気・電力に関するEngineering Language と いっても差し支えないと私は思っています。 多少なりとも思い当たる皆さんへ、その考え方のコツの ようなものをお伝えしたいと思います。 例によって自転車と同じです。乗れるコツがわかればもう簡 単です。

7.2) 変数変換 座標変換 について
  対称座標法とは数学的に云えば一種の複素数の変数変換法(or 座標変換法)です。 それでまずは準 備段階として複素数の変数変換について復習しましょう。
X-Y 直角座標上に任意の点P(x, y)があるとします。この時、原点 OからP までの矢印直線は2次元の 複素数で表現される Vector (x, y) ともいいます。 この点 OP を結ぶ Vector (x, y) を X-Y 直角座 標ではなく極座標で(R,θ) で表わすことも可能です。 これらの事情は下記のように表現できます。


両者は同じVector の状態を二通りの座標を使って表現したことになり、両者には下記の関係が成立しています。

P(あるいはベクトル )は時間的に移動しているかもしれないのでそのことを強調したければ各変 数に(t)を付してx(t), y(t), R(t), θ(t)としてもよいでしょうが、以下では(t)を省きます。 結局、変数群(x, y)と変数群(R,θ)の相互関係を示す 2 つの変換式(7.2a)または(7.2b)を規定すればベク トルP は式(7.1a)(7.1b)のどちらで表現することもできるということです。 両者どちらの座標で表現し ても“1 対1 対応one to one correspondent)”の関係は保存されていて“価値は同じで交換可能”ということ になりますます。
  さて、「一般に変数が2 個(n 個)の変数群(あるいは座標軸)で表されるベクトルPがあるとき、それ を別の2 個の(n個)の変数群(座標軸)のベクトルとして表現することができ、点Pがどこに移動して も両表現は“1 対1 対応one to one correspondent)”の関係にある」ということになります。 ただしその 場合、第1 の変数群と第2 の変数群の相互関係を表現する2 個の(n個)の独立した変換式が必要です。
私達は三相回路で変数が3 っ一組((va, vb, vc)など)の量を扱うのでこれを別の変数群(v0, v1, v2) に変換 するためには両者を結びつける関係式を3 っ用意すればよいことになります。 変数変換法はいくらで も創作することができますが、変換することで役に立つ変換でなくてはなりませんね。電力技術にとっ て不可欠の二大変換法が対称座標法(012 法とも称します)とdq0法ということになります。ほかにαβ0 法というのもあります。 まずは012 法を勉強しましょう。

7.3) 複素ベクトルの極座標表表示とその利点
ベクトル = x + jy = R∠θ があるとします。 今、長さがこのベクトルの 3 倍で角度が30°反時計方向 に回転したベクトル' = x' + jy' = R'∠θ' を得たいとします。 これを X-Y 座標で計算するのは結構大変です。
として(x', y')を解けばよいのですが、こんな計算はややこしくてやっておれません。 ところが極座標で計算すればどうでしょう。式(7.1b)のR を三倍して3R にし、θ に代わってθ + 30° と すればよいだけです。すなわち、

結局元の R・eに対してR を 3 倍して3Rにし、さらに、 ej30°を掛け合わせればよいことになります。 「或るベクトルに ej30°を掛け算する」ということは、その「ベクトルを反時計方向に30 度回転させる」 効果があることになりますね。 ej30°自身もcos30° + j sin30° あるいは √3/2 + j1/2 というベクトル ですから式(7.3b)は2 つのベクトルの掛け算をしていることになります。

これは unit vector 1∠0° = 1 + j0 を反時計周りに120 度回転したベクトルになります。このように定義 された a (operational vector と云います)は図7.1 に示すように代数的にも幾何学的にも実に美しい関 係があります。a を2 乗してa2 を計算してみると

これは unit vector 1∠0° = 1 + j0 を時計周りに120 度回転したベクトルになります。 代数的にも幾何 学的にも次式が成り立つことも明らかです。

またoperational vector aa2 は式 1+ a + a2 = 0の 2 つの複素根−1/2±j√3/2であるということに もなります。
任意のベクトルvとすればa・vv・aでもよい)はvを反時計周りに、またa2・vは時計回りに 120 度回 転させたベクトルということになります。
ついでに示せば

ですからベクトル元のベクトル jvvを反時計回りに、−jvは時計回りに 90 度回転させたベクトルに なります。

7.2 対称座標法の変換定義、
  さて、いよいよ対称座標法の説明になります。 対称座標法とは3 相回路の任意の或る地点の3 っ一 組の複素數表現の電圧(va, vb, vc)と電流(ia, ib, ic)を3 っ一組の電圧 (v0, v1, v2)と電流(ia, ib, ic)に変換す る変数変換法なのです。 数学的には “3 っの複素変数量の変数変換”ということになります。 変換式と逆変換式は次の式で定義されます。

電流の変換逆変換も同形なので記載を省きます。このように変換されたv0,i0 をゼロ相(zero-sequence,ま たはpositive-phase)、v1,i1を正相(positive- sequence)v2,i2 を逆相(negative-sequence)電気量と名付けます。磁束も(ϕabc)が同形の変換式で (ϕ012)に変換されていることを記憶しておいてください。 対称座方法の計算では変数(va, vb, vc)、(ia, ib, ic)は全て複素表現であり、したがって (v0, v1, v2)、(i0, i1, i2) 0 1 2 (i , i , i )も複素量であることを記憶しておいてください。 それから変数は時間的に変化するかもしれ ませんのでそれを強調したければ各変数に(t)を付けてもよいでしょう。 つまり対称座標法変換では abc 相の瞬時値が012相の瞬時値に変換されるわけです。 過渡現象計算にも使用できるということ です。

今回はここまでで打ち止めです。 続きは次回に。

2020年7月22日 長谷良秀
 
     
 
 
 
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