電力技術理論徒然草 No.9 (長谷良秀) 
     
 
対称座標法(Symmetrical Components:012 法):その3

  前々回のNo.7で対称座標法とは「abc 相の複素電気量を0,1,2 相の複素変数に変換する変数変換で あること」を強調してその変換式・逆変換式の定義式を示しました。 また前回NO.8 では三相1 回線 送電線を対称座標法(012 法)に変換する方法について解説しました。線路が三相平衡(撚架されている) とすれば012 領域では正相・逆相・ゼロ相回路間の相互インダクタンス・相互キャパシタンスがゼロに なって正逆ゼロ回路をそれぞれ独立に扱うことができることを示しました。
  話の順序として本当はここで「架空地線のある送電線」「2 回線鉄塔による平行回線の場合」の回路的 取り扱いについて説明すべきですが、割愛します。また送電線のL,C,R 定数が数値的にどのようになる かについては後回しにしましょう。

9.1) 発電機の近似的な回路の012 変換
次は発電機についてです。 発電機には系統につながる電機子(Stator)と直流励磁電流を流して回転する 直流磁束を造り出す回転子(Rotor)があります。一つの回転する直流磁石(ローター)を囲んで三つの 電機子a 相b 相c 相コイルが相互に120 度の位置に配置されています。abc相コイルには(ローターが 原動機の機械力で回転することによって磁束が変化(回転)するのでその磁束の変化(回転)速度に比例 し、かつ位相が120 度づつ異なる電圧ea, eb, ecを誘起します(Faraday の第1 法則です)。この電圧を 発電機の内部誘起電圧(Intrernal source)といいます。 また、もしもコイルのabc 相端子に外部負荷 が接続されておれば発電機には電流ia, ib, icが流れますがabc 相コイルには三相平衡な自己&相互インピ ーダンスがあるので端子電圧va, vb, vcは電流による電圧降分だけea, eb, ecと異なる値となります。そこ で発電機の最も簡単なabc相等価回路として図9.1 のように表現したくなります。 発電機の実際の理論回路はこんな簡単のものではなくてコイル構造が複雑な配置になっているので各部 位毎のインピーダンスも複雑に入り組んでいます。 したがって発電機のabc相コイルのインピーダン スを図9.1 のような簡単な回路として表現することには無理があります。 送電線の場合はどの地点に おいてもabc相導体相対的配置と鉄塔の高さがほぼ同じなのでどの地点毎のインピーダンスもほぼ同じ、 したがって区間全体のインピーダンスはそれに距離を掛けるだけで区間インピーダンスとして表現でき るのでしたが、発電機ではそうはいかないということです。
発電機の回路として図9.1 は正確さを欠いており、発電機端子近傍の短絡事故での過渡現象とか発電 機の動態安定性を理解し、あるいは厳密に解析する場合には図9.1 は使えません。正しく表現するために はdq0法変換を駆使した回路として扱う必要があります。 ただ実際の系統全体としては発電機のほか に変圧器・送電線・負荷などのインピーダンスが連なるので、回路全体としては発電機の不正確な表現が 希釈されてさほど問題とならなくなります。したがって、潮流計算や故障計算を行う場合には発電機回 路を図9.1 のように表現する(ただし故障計算の場合には短絡事故直後の三つの時間帯(0~cycle,~1 秒,1 秒~)によってインピーダンスを入れ替える)ことで概ねOK といえます。

  さて、以上の点を理解したうえで、発電機の近似的な回路として図9.1 を採用することにします。この 図を発電機の式で表現すれば次式となります。   発電機のabc 領域の式

  なお、ここでは電圧eと混乱しないようにネイピア数を ε = 2.71828・・・と表現しましょう。

式(9.1a)を次には012 領域に変換します。この式にa(3x3 の行列ですよ)を左積すると

上式中の内部誘起電圧 e012, インピーダンスa・Zabc・a2, 中性点電圧 a・vn をそれおれ 3 行行列として 計算してみます。


また、a・Zabc・a2は形式的にNo.8 で勉強した平衡した送電線の式(8.5)と同形ですからその結果を流用すると

式(9.2c)が発電機のabc 回路式(9.1a)を012 領域に変換した対称座標法による発電機の式であり、これを 等価回路図として描けば図9.2 のようになります。 発電機が三相平衡であるがゆえに正逆零相の間に 相互インピーダンスがなくそれぞれ独立した回路として表現できることがわかります。 蛇足ですが、皆さん、(9.2c)の表現は中学・高校で卒業しましょう。皆さんは行列式表現(9.2c) で理解し、 表現してくださいよ。 世の中,simulation で溢れかえっていますが、すべて行列演算ですからね。


9.1) 負荷の近似的なモデルと012 変換
  負荷(Load)は一般に特性の異なる大小さまざま多数の個別負荷の集合体です。 特定の工場構内の 負荷の場合には各feeder 毎の負荷の特性や運転パターンがかなりはっきりしている場合もあります。 電力会社の系統の回路解析の場合には受電変電所の負荷とは大口需要家負荷と配電系統の負荷の集合体 ということになります。回転機負荷、固定的負荷・・さまざまですがこれらは一般に集合負荷として模擬 することになります。 自己/相互インピーダンスが固定な負荷(Lump-load)とみなすことにして次式 のようなモデル式として扱うことになります。

  しかしこのままでは対称座標法に変換すると正相・逆相・零相回路の相互間に弱のcoupling が生まれ ることは既にN0.8 での勉強から明らかです。 そこで多くの場合、負荷は割り切って三相平衡回路扱い をします。 現実の負荷群には単相負荷をはじめとして不平衡負荷も含まれますがこれらはできるだけ 平衡するように各相or 各相間に平等分散させるなどの配慮がされること、撚架などの施策も実施される ことからマクロ的にはおおむね三相平衡と考えてよいということです。

  このインピ-ダンス行列は形式的に三相平衡送電線の場合の式(8.4)と同じですから式(8.4)~(8.6)を準用して次式を得ます。

  なお電熱・電灯固定負荷などに象徴されるstatic な負荷では送電線と同じように理論的にz1 = z2とな りますが、誘導機負荷などではz1 ≠ z2です。したがって大型電動機が主要な負荷となる場合などでは z1 ≠ z2 として異なる数値を採用することもあるでしょう。   さて、発電機・送電線・負荷モデルの012 領域での行列方程式とその等価回路について解説しました。 今回はここまでとしましょう。

2020年9月8日 長谷良秀
 
     
 
 
 
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